オーダーメイド本屋

村崎 キコ

第1話

僕の行きつけの本屋。ここは「オーダーメイド」本屋である。どんな本屋だって?


読みたい物語があるとき、こんな風な話が読みたいんですと店員さんにお願いする。しばらくするとその本屋から「入荷しました」と電話がかかってくる。

本を取りに行って読むとまさに僕が読みたいと思っていた物語そのものが用意されている。

こんな本屋は他にはない。サービス料が込みなので、本の値段は少しお高いがそれ以上の価値がある。

店員さんは本のソムリエみたいなものだ。

そう、ずっと思っていた。


でも、それは勘違いだった。




ある時、オーダーメイド本屋の前の道を通った。


「もう、やってらんねぇーよっ!!」


本屋から男の人の怒号が聞こえた。ちらっと本屋を覗くと、本屋の奥にある扉が開かれていた。いつもは見えない扉の先が見えた。


そこにはたくさんの人間がパソコンに向かい合って何かを必死に打ち込んでいた。

その中の一人の男の人が叫んでいる。


「訳のわからない物語を書かされたりして、しかも大した金ももらえないっ!こんな仕事やっていられるかっ」


いつも対応してくれる店員さんが、いつも通りに穏やかに言う。

「でも、あなたの書いた物語が誰かに必要とされて必ず誰かに読んでもらえるんですよ。あなたなんてウェブ上で書いていても誰からも読まれていなかったのに」


「ぐっ……それを言われると」


「そうでしょう。だから早く戻って、物語を書いてくださいね。書いてお金だってもらえるんですから……ね」


その言葉で男の人は力なく本屋の奥の部屋に入ってパソコンの前に座って他の人と同じようにキーボードを打ち始めた。


扉は閉じられた。



本は取り寄せていたのではなかった。作り出されていたのだ。


あの扉の先の人々の手によって。それは僕だけに用意された僕だけの物語。


オーダーメイド本屋で買った本を見る。


僕の今読んでいる本は、もしかしてあなたが書いたものですか?

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オーダーメイド本屋 村崎 キコ @tamanegipon

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