第4話 主たる器になり得るか


 主。

 中心となる人、支配する人といった言葉だが、それは果たして職業ジョブでなくてはならぬものなのだろうか。





▷▶︎初めての狩場 イッチ草原



「……よっしゃッ!!」


「はぁ……これだからマスター系ジョブは」


 キュッと鳴き声を上げてボーンラビットがひっくり返る。

 視界の端に「モンスターを討伐しました」「レベルが上がりました」と表示されたのがわかった。

 あさりちゃんとパーティを組んだあと、俺が何とか倒せる敵を優先的に狙いながらレベル上げをしていた。

 当然、素手で相手する訳にも行かないので、今の俺はロングソードを装備している。

 どういう経緯で手に入れたのかと言うと……。


「……いや、我が物顔で使ってるけど、それわたしのだからね?」


「あ、はい。その節はどうも──」


「貸してるだけってこともわかってる?」


「──そんな言わなくても良くないか!?」


 とまぁ、貸してもらっているのだ。

 そんな手元のロングソードを凝視してみれば。


──アイテム情報──

名前:── [名付け可能]

形態:ロングソード レア度:N

習得スキル:〈斬撃〉《形態変化[開示に成功しました]》

称号:【救世主メサイア】の所有武器


 ……明らかに「所有武器」と書いてあるのだが、大丈夫なのか。

 名付け可能という不穏な文面や開示がどうとか書いてあることだし、あまりいじりたくはないのが本音だ。


「で?今使ったスキルが?」


「えーっと、【三位一体トリニティー】らしい」


「ふーん……効果は?」


 ということで、スキルを凝視しながら念じてみる。



──スキル【三位一体トリニティー】──


[縺薙l縺ッ荳サ縺ォ縺ョ縺ソ險ア縺輔l縺溽音讓ゥ]


[神も子も聖霊も、同じ存在が別の姿で現れたまで]


[一見関係のないようなものも複雑に絡み合っているのだ]


[使用キャラ、装備品、当スキル以外のスキルの効果が3倍される]



「何か色々強くなるっぽい……ってことは分かった」


「まぁ、確かに〈斬撃〉にしては有効範囲が広すぎるなとは思ったんだけど……何かシュバッ!!って動いてなかった!?!?」


「体感は何も変わんなかった気が……いや、周りが遅くなってたか?」


「そうそう!それそれ!私が本気出したらなる現象だよそれ!」


「地味に自分を持ち上げてないかそれ?……まぁ、プレイ時間を考えれば俺がおかしいのか」


 それを聞いてブンブンとヘドバンをするあさりちゃん。

 とまぁ、3倍というだけあって効果は歴然らしい。

 ……上の方にあった文言は見なかったことにして、モンスターを討伐し終えた事でチュートリアルと共にレベルも上がったので確認していこうと思う。


─チュートリアル一覧─

1,ログインをしよう

 clear! 報酬 1万G

2,プレイヤーと話してみよう(チャット可)

 clear! 報酬 パーティ機能解放

3,モンスターを倒してみよう

 clear! 報酬 ジョブに合うR等級の武具

4,装備を買ってみよう

 報酬 SR絆のブレスレット

5,パーティを組んでみよう

 clear! 報酬 ダンジョン機能の解放


職業,NPCからのミッションをクリアしよう

 報酬 1万EXP



──プレイヤー情報──

名前: イグサ アメダ (雨田 藺草)

年齢:21 性別:男

ジョブ:【救世主メサイア】 レベル:3

習得スキル:【三位一体トリニティー】【全回復オールヒール

称号:五番目の主

運営からの一言:なるほど。そういう感じのスキル構成だったんですね。【救世主メサイア】と一口に言っても色々な伝承があるものですから、なかなか判別が付きにくかっ……え?ちょっと待ってくだs


 ……レベルを確認するために開いたは良いものの、運営からの一言が目にチラつく。

 何故そんなに重要なところで文を区切ったのかもよく分からないし、何を判別しようとしていたのかも不明だ。

 レベル自体は順調に上がっていて、3にまで上がっている。

 この調子で成長していきたいところだ。


「ところでさ、その剣何かおかしいんだよね」


「あぁ、確かに変ではあるよな」


「今見つかってるレア度がURアルティメットレアHRハイパーレアSSRダブルスーパーレアSRスーパーレアRレアCコモンなんだけど……」


「レア度?……NだとNormalノーマルってことだろ?」


「まぁ、他のソシャゲだとそれが一般的ではあるんだけどレア度がNの武器って他にないんだよね。あとCコモン武器にスキルが付いてるのはおかしいし……」


「調べたりしたのか?」


「んー、ネットを漁った感じは特に無かったかな。もしかしたら見つけて黙ってるってこともあるかもだけど、あんまメリットないって言うか開拓者になりうるから有名になれるって言うか……まぁ、静かに暮らしていたい人もいるからね。有り得なくはないか」


「なるほどな……あ、名付け可能と形態変化っていうのも気になるよな」


 その言葉を聞いた瞬間に、あさりちゃんがこちらを凝視する。


「……ん?今なんて?」


「え、だから名付け可能──」


「──今すぐ返してー!!」


「ちょ、ちょっと待てっ──」


「〈即死角〉!!!!」


 そうして後ろから抱きつかれた俺はバランスを崩して、自分の腹に剣を刺してしまった。


「──ッ……!?」


「え?」


──バタッ


 みるみるうちにHPが減っていく。

 その分だけ剣が光り輝いている様に見え、まるで俺の生命力を吸い尽くそうとしているようだ。

 確かにゲームのはずなのに、血の気もだんだんと引いてきて、冷や汗が溢れ出す。

 後ろのアサリちゃんはレベルの差でまだ余裕があるのか、はたまた完全に突き刺さっている俺よりも浅い傷だったのか、消えゆく視界の中で俺を治療しようと試みているのが見える。


 ……あぁ、そんなに綺麗な服を真っ赤に染めても俺を治療するのか?


 お気に入りの服だったんだろ?


 現実じゃ勇気が出ないけど、この偽りの世界なら着てもいいと思ったって言ってただろう?


 だから今すぐに離れてくれよ──



─ー─ー─


「私、引きこもりでさ。毎日毎日布団の上で、スナック菓子とスマホと暮らしてたんだ」


「でも、久々に布団から離れてPCの前に座って実況動画見てたらさ、このゲーム見つけたんだ」


「そこから、急いでコンビニまで走ってプリペイド買ってきてさ……外出たの何年ぶりだったんだろう?」


「パーカー1枚で……冬だったな。雪も少し降ってるくらいの寒さで死ぬかと思ったよ」


「でも、何とか家まで帰ってきて、パソコンにインストールしてみたんだよ」


「……あー、ヘッドセットは埃被ってたけど一応持ってたからね。ダイエットになるかなって思ってたんだけど、使うこともなかなか無くてね……」


「で、今みたいなアバターを手に入れて、普段着ない服とか着てみたりとかしたら楽しくて」


「戦うのも好きだけど……この世界ではオシャレにも気をかけてみようかなって思ったんだ!」


─ー─ー─


 その顔は、引きこもりのそれじゃなかった。


 青春を謳歌する学生そのものだった。


 だから俺は──


「──〈全回復オールヒール〉」


「えっ?」


 彼女の服ごと元通りに治した。



 やがて、視界が完全に暗転する──





▷▶︎芽鷺 大亜のシステムメッセージ



──

──「他者に寄り添う者」を獲得

──


──

──【救世主メサイア】との適合率を確認

──


──

──100%。

──


──

──……獲得可能スキルを確認

──


──

──二つ該当。

──


──

──精神領域が基準に達している為獲得します

──


──

──〈信頼の証シンクロ〉を獲得

──


──

──〈信頼の力デタミネーション〉を獲得

──


──

──〈信頼の力デタミネーション〉によりHPを停止させます

──





▷▶︎初めての狩場 イッチ草原



「ふぁあー……あ?」


「あ、やっと起きた……!」


 目が覚めると、目の前に顔があった。

 その顔には乾いた線が引かれており、何故か目尻に水が溜まっている。

 そこに反応を示すことはないが、代わりにお腹の辺りがごわごわすることに気づく。

 そこに視線を向けてみれば──


「──穴が空いてるな」


「……そう、だね。穴が空いてるね」


「……うっぷ。おe──」




──

──ただいま、映像が乱れております

──



「──っと、あぶねぇ。流石に吐く訳には行かねぇか」


「いやまぁ、バーチャル空間だから大丈夫だと思うけどね。多分」


「〈全回復オールヒール〉」


──

──ただいま、使用不可です

──


「……って、はぁ?」


「……まぁ、私の傷治してもらっちゃったしクールタイムがあるんじゃない?」


「もしかして、このまま?」


「……そうかも?」


「そりゃねぇよっ!」


「あはは……ごめんね」


 暗転したあと眠気に襲われ、目が覚めるとこんなことになっていた訳だが……システムメッセージが何やら不穏なことになっていたことが分かる。

 アサリちゃんの顔を再び見てみれば、何かを言いたげにこちらを見つめている。


「あのさ……それ痛くないの?」


 言われてみればそうだ。

 現実ではお腹に穴なんて空いてしまえば、出血多量で直ぐに死んでしまうだろう。

 しかし、ここはバーチャル空間であって死んだとしてもただペナルティと共に蘇るだけだ。

 と、思ったところで気づく。

 先程、妙な寒気が体中を巡っていたことに。


「もしや──」


 視界の右上にあるドアボタンに注目をする。


──

──ログアウトしますか?

──


「……いや、別に普通にログアウト出来るな」


「あぁ、別にここが現実だって話をする訳じゃないよ?」


 それで説明を受けたのだが、なかなか理解し難い内容だった。

 まず、ジョブにはある程度位があり、その位が高くなればなるほど、この世界とのリンクが強くなっていくようだ。

 当然、マスター系ジョブなんかは最上位のジョブなので、その繋がりもかなり強固とのこと。

 それ故に、この世界に多大な影響を及ぼす事もできる反面、こちらの感覚も比例するように大きくなってしまうらしい。


「通りで、あんなにキツイ目にあったわけか……」


「まぁ、有名税ならぬ強すぎ税みたいな感じなのかも?」


「強すぎ税は良くわからないけど……」


 ん?ごまかされているが、俺が死にかけたのってそういえば──


「──そうだ、何で後ろから抱きついてきた!?」


「あ、気づいちゃった……?」


「何が『あ』だよ!」


「えへ、えへへ……は、恥ずかしがっちゃってぇー……おりゃおりゃー……みたいな?」


「は、恥ずかしくねぇし?こ、ここ、こんなんいつも通りだし?」


「……え、マジ?」


「いや、引くなよ!……じゃねぇわ、騙されねぇぞ?」


「あ、あはは。えーっと、白状しますと……URでも強力な武器として“魔剣”系と“聖剣”系っていうのが発見されてるんだよね。で、その特徴として名付けが出来るっていうのとか、〈形態変化〉とかいうのが出来るらしいんだよ。嘘だと思ってたんだけど……本当だったっぽいから返して欲しいなっ!」


「いや、『欲しいなっ!』じゃないんだよな。こっちは死にかけたわけだし……何なら所有武器って書いてあるし」


「え?所有武器!?……そんなぁ、手に入れたの私なのに……」


 そう言ってへなへなと座り込むアサリちゃん。

 ……まぁ、確かに手に入れたのはアサリちゃんというのは事実だ。

 何かしら手助けは出来れば良いが……。


「そうだな……どこで手に入れたとか覚えてないのか?」


「手に入れた……あれ?確かにいつの間に入ってたんだろう」


 そう言って虚空に指を這わせるアサリちゃん。

 これはメニュー欄から飛べる〈ストレージ〉を触っているのだろう。

 装備をしていない武具やアイテムなどをしまうことが出来る優れものだ。

 言ってしまえば四次元ポケ──


「んー、分かんないな……」


「さっきはどの辺から取り出したんだ?」


「多分前回のイベント……かな。でも、賞品は大体私が使ってるし……」


「前回はどんなイベントだったんだ?」


「えーっと、“武具文字数多いヤツ優勝大会”とか言うゴミイベントって世間で言われてるやつだね」


「……それこそ、名付けでめっちゃ長い名前にすれば優勝出来たのでは?」


「──あ」


「……え、マジ?」


「ばかばかばかばかばか──」


「いてぇよ!?さっき痛みがあるって話したばっかだろうが!?」


 グルグルパンチを受け止めること約1分。

 右下にシステムメッセージが来ることで我に返る。


──

──モンスターと接敵しました

──


「敵かっ!」


「うそっ、エネミー!?私のスキルが反応してないのに!?」


 腕の中であさりちゃんがアタフタしているが、いちいち反応している暇もないので、剣を構える。


──モンスター情報──

名前:計測不能

年齢:計測不能 性別:計測不能

種族:悪魔 レベル:計測不能

習得スキル:計測不能

称号:支配階級の悪魔


「‪ふぅん?何かおかしなことになりそうだったから来たけど……まだ、ひよっこじゃないか。しかも……瀕死だし」


 足の先から頭の天辺まで見回しながら独り言ちる謎のモンスター。

 天使のような純白な翼を生やし、真っ白な肌に纏われているのは黒いスーツのような衣装。

 しかし、所々に白いアクセントもあって堅苦しさは一切感じないラフな印象を与えてくる。


「なっ……何だこれ?」


「計測不能……?何で……?」


「お、私の力を見ようとしているのかな?ふふふ、残念。それは無理だよ」


「悪魔……って何だ?」


「悪魔なんて、最前線でも下級が数体出ただけで苦戦してたって話なのに……!」


「あぁ、別に敵対しようって訳じゃないんだ。……まぁ正確には辞めたって所かな」


──

──モンスターと和解しました

──


──

──「隔たりを超えし者」を獲得

──


──

──【救世主メサイア】との適合率を確認

──


──

──……99%。

──


──

──……獲得可能スキルを確認

──


──

──一つ該当。

──


──

──精神領域が基準に達している為獲得します

──


──

──〈後光〉を獲得

──


──

──〈後光〉により闇の使者に威圧効果を与えます

──


「……ん?存在が明確になったか?」


「スキルのせい……か?」


「何かぺかーってしてるよ?」


「くっくっくっ……とことん面白いなっ!やはりここで殺してしまうのは勿体ない!ついでに空いている穴も塞いであげようじゃないか」


「あ、忘れてた」


「いや、忘れてるのはおかしいでしょ」


「〈大回復ハイヒール〉」


 お腹の辺りに温もりを感じ、僅かに光っているのが分かる。

 服まで元通りとは行かないが、失われた血肉は無事に戻ってきている……気がする。


「逆にどうしてそんな状態で生き残っていたのか分からないが……人間は腹に穴が空いていても平気な種族なのか?」


「そんな事ないですっ!コイツがおかしいんです!」


「コイツって何だよ……」


マスター系ジョブだし、あながち間違いでは無いでしょ!?」


「……そうかもしれないけどさ」


「ほう……?マスターだと?」


「ちょ、他の人の前であんま余計なこと言わない方がいいって!質問されても困っちゃうから!」


「確かに、イベントNPCなのかな?このゲームのNPC、AIとかも導入されてそうだし、余計なことは言わない方がいいね」


「ふふっ、不思議なことを言う小娘だな!……しかし、マスターなんてものはここ1000年は出ていない……いや、最近は例も見ない程に増えているか。面倒だな……」


「増えると何か不味いことでも?」


「そうだな……いや、ひよっこにはまだ早いだろう。時が来れば話してやる。……しかし、生まれたばかりでその領域に至っているのであれば、10年……いや、それよりも早く会う機会があるかもしれないな」


「はぁ……?まぁ、またその時にってことで──」


「いや、暇な時は覗きに来るぞ?」


「──え?」


「それじゃ、また会おう!主たる器を持つ者よ!」


 悪魔はその体を糸のように細くして虚空へと消えていった。


✄---------------------------------------------------------------‐✄


 皆様お久しぶりです……!


 抹茶嫌いです!


 まずは2ヶ月ぶりの更新、大変お待たせしました!


 なんと言いますか、スランプのようなものに陥ってしまい、なかなか自分の書く内容に自信が持てず、書いては消してを繰り返していました。


 これからも少しずつではありますが、更新をしていきたいと思っているので、引き続き応援してくださると幸いです……!


 あとがき失礼しました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【救世主】とかいう凄そうな職業を選んだら、チュートリアルから抜け出せなくなったんだが。─最初の町から進めるフルダイブ型RPG─ 抹茶嫌いのmattyan @mattyan1111

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ