第3話 難攻不落の孤城

 孤城。

 一般的な日本語としては、他の建物と離れている城、援軍の見込みがなく孤立している城といった意味で多用される。

 しかし、でどのように扱われるかはまた別の話だろう。





▷▶クラン〈難攻不落の孤城〉



「ハハッ……流石リオだな。第2位と1万ポイント差かよ」


「うーん……僕は別にそんなにゲームが得意じゃないんだけどね」


 クラン〈難攻不落の孤城〉にて話しているのは、クランマスターである“秋葉あきば リオ”と古くからの戦友ネッ友である“左龍さりゅう”だ。

 それぞれ職業は【難攻不落城主インプレグナブルキャッスル】と【竜騎士ドラグナー】。

 そのコンビネーションに魅せられた者は口を揃えて「最強」と言うらしい。


「馬鹿言えよ!お前別ゲーでもほとんどランキングに名前載ってんじゃねぇか!」


「それは君のような仲間に恵まれているからだよ。僕はタンク業しか向いてないから、1人じゃどうしようもならないんだ」


「タンクって……あれでか?」


「……このゲームだとちょっと火力がおかしいけどね」


 デビュー試合で見せたリオのプレイングは今でも語り続けられているくらいには有名になっている。

 それはパーフェクトゲームと言う他にない所業。

 スポーツのそれとはまるで一線を画した、とてつもなく圧倒的なゲーム。


─ー─ー─


 試合開始後、瞬く間に壁が幾つも生える。

 その壁には穴が空いており、無数の大砲が覗きこんでいる。

 肝心の術者はその城の天辺に鎮座しており、とてもじゃないが攻撃を当てることは出来ないだろう。

 そこで傍観していた──傍観せずにはいられなかった──挑戦者が発した言葉。


「独りでも成立する城……まさしく……これこそが孤城だ──」


 突如、あらゆる壁から鉄の球が飛んでいきHPを0にした。


 その間、僅か14秒。


─ー─ー─


「──なんてこともあったな」


「あれがこのギルドの名前になるなんて思ってもいなかったけどね」


「ハハッ!あいつも光栄だろうよ!ギルド名にもなって、試合時間最短の世界記録にもなってな!……今頃何やってんだろうな?」


「あー、名前覚えてなかったな……お礼のひとつやふたつくらいした方が良いかな?」


「いやいや、このギルドが出来てから3ヶ月は経ってるからな?何かあったらあっちから接触してくるだろうよ」


「……それもそっか」


「って、なんで納得してんだよ!」


 あはは、と周りにも笑いが起こる。

 肝心の当人は困惑の表情を浮かべており、その顔は「何か変なこと言った?」とでも言いたげである。

 そんな雑談をしつつ次のダンジョンの行先を決めていたが、突如全員のメッセージボックスが点滅し始める。

 それを目にした左龍は慣れたようにメッセージを確認すると。


「って、オイオイ!」

 

 その内容を見た左龍は思わず声を上げた。

 内容は以下の通りだった。


○プレイヤーの皆様へ

マスター職業ジョブの新たな情報が確認されたぞ!

その名も【救世主メサイア】。

名前から察するに、恐らくヒーラー系最強のジョブかと思われるぞ!

これまでに大きな活躍をした者が存在していなかったヒーラーだが、彼・彼女のお陰でそのイメージも払拭されるか!?

続報はまたの機会に!!


「お前らメーボ確認しろ!」


 メーボというのはメッセージボックスを略した造語のことだ。

 そのメーボを渋々確認したギルドメンバーは大きく目を見開き、クランマスターであるリオの元に集まっていく。


「マスター……これはまたランキングが荒れそうだな?」


「相性的には有利不利以前にヒーラーであれば戦うことはないかもしれないけどな」


「しっかし、クラン内に取り込めねぇっていうのは厳しいとこがあるなぁ……」


 ほとんどの職業ジョブは制限なくクランを結成できるのに関わらず、マスター系ジョブのみはその範疇になく、一つのクランに1人しか所属出来ないのだ。

 これは検証するまでもなく、運営からクラン設立時に最重要項目として通達される。

 それだけ、マスター系ジョブは力を持っているということに他ならない訳だが、不満を持つ者は何処にでも居る物である。


「まぁまぁ……確かに、ウチのメンバーはヒーラーというよりも攻撃専門の人の方が多いけど、初めのうちだったらいきなり追い越される訳じゃないだろうし、気長に待とうよ」


「何を待つかは知らんが……まぁ、せいぜい楽しませてみろってとこだよな」


 そう言って安物の木の椅子に寄りかかる左龍。

 彼らは確かに稼いでいるはずなのだが、クラン全体の意向として質素な生活が推奨されているのだ。


「そう言って結局、僕の後のマスター系ジョブの人にも負けちゃってるし」


「……それは仕方ねぇだろうよ」


「てか左龍さんって、何だったら5位の剣聖に手も足も出てな──」


「お前は万年1000位だろうよ!」


「いや、1000位にいるだけ凄いでしょ!」


 左龍以外の周りの人間がうんうんと頷いている。

 左龍は拳を握り締めているようだが、リオが苦笑いを浮かべながらそれを止める。


「喧嘩は良くないよ……はぁ、今頃【救世主メサイア】さんはチュートリアルだろうからいつ表舞台に出てくるか分からないし、何ならランキングとか興味ない人かもよ?……もしかしたら、僕より長くチュートリアルをやることになるかもだし」


「マスターより長くって……最早生き地獄だろ!逆に一週間も足止めされて飽きなかったマスターがおかしいだろうしな!」


 確かに、と再び笑い声が漏れる。

 しかし、クランマスターである秋葉 リオは自らのステータス画面に浮いているジョブの名前を静かに眺めていた。




▷▶初めての街 ファース



「よし、最初はこれをクリアしに行くか」


 当然、チュートリアルとはいえいつかは終わるはずなので、この世界に慣れながら気長にやっていこうと思う。

 改めて項目を確認すると


─チュートリアル一覧─

 ・

 ・

 ・

3,モンスターを倒してみよう

 報酬 ジョブに合うR等級の武具

4,装備を買ってみよう

 報酬 SR絆のブレスレット

5,パーティを組んでみよう

 報酬 ダンジョン機能の解放


職業,NPCからのミッションをクリアしよう。

 報酬 1万EXP


 まずは一般チュートリアルをクリアしていこう!……ということで、3番のモンスターを倒しに初めての狩場 イッチ草原とやらに行ってみることにした。




▷▶初めての狩場 イッチ草原



「おー、意外と人が居るな」


 見渡す限りの草、草、草。

 その中に様々な格好をした人がある程度固まって散策をしているようだった。

 様々な格好といっても、共通しているのは刃物を携帯しているというところだろうか。

 現実でそんな光景を見たら思わず膝が震えるだろうが、ここはゲームだ。

 そんなところに過剰に反応している場合では無いだろう。


「さて、お手頃なモンスターちゃんは何処かな?……お?」


 ぴょこ、とでも言いたげに現れるうさぎの耳らしきソレ。

 しかし、そこにはドリルのように捻れた角が付随しており、普通のうさぎでは無いことが分かる。

 ご丁寧に視界の端には、


──

──モンスターと接敵しました

──


と、無機質なメッセージが送られてくる。


「さて、【救世主メサイア】様のお力とやらをとくとご覧あれ──」



 ──と、思い立ったはいいものの、戦闘手段が無いことに気づいた俺は現在。


「はっ、はっ、あぶねぇ!」


 キュッ、と鳴き声を上げて突進してくるうさぎもどきに追われながら草原の至る所を走り回っていた。

 よくよく目を凝らして見るとその頭上には。


──モンスター情報──

名前:──

年齢:── 性別:──

種族:ボーンラビット レベル:5

習得スキル:〈突撃〉〈疾走〉

称号:イッチのモンスター


 大して強いようには見えないが、それは俺のステータスを見てから言って欲しい。


──プレイヤー情報──

名前: イグサ アメダ (雨田 藺草)

年齢:21 性別:男

ジョブ:【救世主メサイア】 レベル:1

習得スキル:───

称号:五番目の主

運営からの一言:逃げてばかりじゃ始まらないよ!……あと、トレイン行為は他人に迷惑だからやめた方がいいと思うよw


 と、言うわけでこのボーンラビットとやらは俺よりも格上な訳だ。

 運営が何かほざいてるが、それは見て見ぬふりをした。

 が、トレイン──調べてみれば、モンスターなどの敵対生物のヘイトを集めたあとに他人に擦り付ける行為──が良くないのは事実なので、この状況は打破しなきゃならない。


「おーい!そこのお兄さん何やってんのー?」


 背後から恐らく少女の声が聞こえてくる。

 しかし、今の俺はボーンラビットとやらから逃げるのに必死……ではなく、集中しているので答える暇はない。

 出来れば離れて欲しいが、トレインが危険なことが分かった以上、ずっと鬼ごっこをしている場合では無いことも分かっている。


「……ボーンラビット?みたいな奴から逃げてんだよ!」


「逃げる?なんで?」


「……攻撃手段が無いから」


「えぇ?もしかして魔法系のジョブなの?……戦闘に参加しても大丈夫?」


「勝てるなら助けてくれ!」


「おっけー、任せて!……〈致死角〉!」


 声の主、だと思われるその人は気づいた時には目の前に居て、ボーンラビットに易々とその刃を突き立てた。

 HPが0になったボーンラビットは光の粒子になると空中に霧散していった。


「ふぅ……助かった」


「助かったって言ったって、魔法系ジョブなら遠くから攻撃すれば良いのに」


「それが魔法系?とやらかどうかも分からないんだが」


「ちょっとジョブ見してもらってもいい?」


「あー、うん。良いけどどうやって?」


 少女は名乗ることも無く、つらつらとステータスの仕組みについて教えてくれる。

 先程の戦闘では〈致死角〉とか言っていたか。

 恐らくそれがスキルなのだろうと思うのだが、一体どんなジョブであればそんな強力なスキルが手に入るのか。

 ……まさか、マスター系──


「──出来た?」


「あ、多分。見えるか?」


「さて、ステータスを……って【救世主メサイア】!?はぁ!?」


「……声が大きい」


「んんっ、失敬、失敬……はぁ!?」


「最早わざとだなそれ?」


「いや、驚くよ。てか、そりゃそっか。チュートリアル中だもんね」


「そうそう。だからモンスター倒しに来たんだけど、どうやって倒せばいいか分かんないしなってなって……ああなってた」


「それは悪いことしたなー。獲物横取りしちゃったみたいで」


「いやまぁ、それはいいんだけど……君は一体?」


「私?私は〈暗殺者〉の“あっさりキラー”。あさりちゃんって呼んでくれても良いよ!」


「アサリ……?いや、なるほど。暗殺者か」


「ふふん、カッコイイだろう?」


「……それなりに」


 それからもう少し雑談を交わしたあと、フレンド登録をすることになった。

 あさりちゃんはこのゲームの初期の頃からのプレイヤーで、かなりの凄腕とのこと。

 ……まぁ、自称だが。

 しかし、ランキングを確認してみれば300位辺りのところで右往左往しているのが分かる。

 ……右往左往という表現がこの場で正しいのかは置いておいて、ともかく実力があるのは間違いないだろう。

 この勢いで、チュートリアルにもあるパーティとやらを組んでみることにした。

 やり方は簡単で、プレイヤーを凝視して〈パーティを組みたいッ!〉と念じるだけだ。

 あさりちゃんには「何か違う気がするけどいっか!」と言われた。


 そんなこんなで5番目のチュートリアルを終わらせた俺は、レベル上げにも勤しむことにした。

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