第2話 いざゆかん『オフィール』の世界へ

救世主メサイア】。

 主に人の世、人類の救い手といった意味で使われることが多い言葉。

 では、この世界では一体何を救うことが出来るのか。

 それはまだ、誰にも分からないことだろう。




──

──ジョブが決定されました

──


「うおっ!」


 突如、右下にそのようなタブが浮かび上がってくる。

 当然、いきなり出てきたものだから驚きのあまり声が出てしまった。


「ふふっ、見慣れないですよね?それ」


「あ、あぁ…あんまちゃんとゲームとか触ったこともないもんで。スクリーン上じゃない分尚更ってこともあるが」


 そう。

 このゲームはフルダイブ型RPGで、数多くのプレイヤー達と協力しあって『オフィール』の世界を探索、攻略していくことが出来る。

 他の言い方をすればMMORPGとも言うのかもしれない。

 フルダイブと言うだけあって、まるでこの場で息をして、会話をしているように感じている分、電子的な情報が目に映ると少しばかり驚いてしまうのだ。


「まぁまぁ、徐々に慣れていきますよ!私も最初は目がチカチカして大変でしたしね」


「へぇ……ちなみに今あんたは職業ジョブって持ってんのか?」


「?えぇ、個人的な端末では【木工師】についていますよ……お友達になられますか?」


「え!?逆に宜しいのですか!?」


「ふふっ、畏まりすぎですよ……でも、聞きたいのはそんなことじゃないでしょ?」


「え、あぁ、そうだった。じゃあ、今入ってるそれは運営用のアバターで、また別のアバターを笠木さんは持ってらっしゃる……?」


「ぷっ……ちょっといい加減その態度やめてくださいよ」


「……はい、ふざけすぎました」


「いえ…ふふっ、こちらこそすいませんね。質問については概ねあっていますよ。しかし、アバター自体は衣服だけ変わっている位で全く変わっていないですけれど」


「ふむふむ。なるほどな」


 キャラクリエイト。

 略してキャラクリなんて言われるそうだが、それをしている最中、自分の顔をイケメンに改変してやろうかと思ったところ、どうも自分の姿と大きくかけ離れたアバターは作成できず、結局断念して瓜二つの顔のままゲームを進めることにした。

 ちなみに、細かな部分であれば変えることが出来たので、このまま始めてしまった俺は日々個人情報特定の恐怖に晒されながら生きることとなってしまった。

 第一、マスター系ジョブについている人はほとんど素性が割れてしまっているそうだが、大会で得た資金で自宅周りのセキュリティをガチガチにしているそうだ。


「この服は運営だけが配布されている服なんですよ?今の所プレイヤーの方々に配布する予定は無いですが、世界ランキング5位以内の方々には配っても良いのではという話も出ていますね」


「今までの話の通りであればもしかして──」


「──さて!あんまり長々と話をしていてもしょうがないですし、早速参りましょうか!」


「……ありがとうございました」


「いえいえ!……まだまだ付き合いは長くなりますよ?」


「え、今なんて──」


「──それでは、『オフィール』の世界へ行ってらっしゃい!!」


「ちょ、ま──」




──

──ようこそ

──『オフィール』の世界へ

──


○初めまして、イグサ・アメダ 様

職業設定、お疲れ様でした。

ここからチュートリアルの開始となります。

チュートリアルが終わるまでは

初めての街 ファース

初めての狩場 イッチ草原

からは出られませんのでご注意下さい。

あなた様のジョブであれば──時間程でチュートリアルは終了いたします。

それでは、頑張ってください。


「──って……スゲェ」


 周りを見渡せば人、人、人。

 よく目を凝らしてみればプレイヤーの名前と性別、自己紹介文などが浮かんでいる。

 更には、プレイヤー達が作ったと思われる建物に店、装備なんかも煌びやかでとても興味をそそる。

 右上にはメッセージウィンドウが表示されており、吹き出しの根元にはメッセージボックスのようなアイコンもある。


「ふんふん……って、何だ?」


 俺が疑問に思ったのは、チュートリアルの推定時間だ。

 笠木さんは、長くて3日ほどと言っていたように記憶しているが、その肝心の推定時間が書いていないのだ。


「……どうするよコレ?ヘルプセンターに話してみるか?」


──ピロン!


 そう思案していると、突然着信音のようなものが鳴る。

 見てみれば、メッセージボックスに赤い丸が追加されていて、何か新しいメッセージが届いているようだ。

 詳細を確認してみると、どうやら2つメッセージが来ていることが分かる。


○プレイヤーの皆様へ

マスター職業ジョブの新たな情報が確認されたぞ!

その名も【救世主メサイア】。

名前から察するに、恐らくヒーラー系最強のジョブかと思われるぞ!

これまでに大きな活躍をした者が存在していなかったヒーラーだが、彼・彼女のお陰でそのイメージも払拭されるか!?

続報はまたの機会に!!


○フレンド申請のお知らせ

カササギ さんからフレンド申請のお知らせです。

─送信メッセージ─

芽鷺さん!【木工師】についている笠木です!

お約束通り、フレンド申請を送らせていただきました!

下の方にある「承認」というボタンを押していただけるとお友達になれるかと!

詳しいお話はまた会った時にお願いしますね!


▶承認 ・削除 ・ブロック ・報告


 と、この2つだ。

 2つ目はともかくとして、1つ目については少し異議を唱えたくはあるな。

 ヒーラー……と言うと、回復役だったように記憶しているが、つまりはあまり派手な魔法とかは期待出来ないということなのだろうか。

 確かに人助けすることは嫌いじゃないが、いくらなんでもゲームの中でまでやることないとは思う。

 まぁ、全く攻撃手段が無い訳では無いと思うので、限られた技だからこそ出来ることに期待したい。


 そして、2つ目について見ようとしたが、気付かぬうちに承認のボタンに手が伸びていったかと思うと静かにスクリーンを指で押していた。

 そうすると、再び「ピロン!」という音がなる。

 そして、


──

──カササギ さんと友達になりました

──


というメッセージウィンドウが出てくる。


「──しゃッ!」


 周りに白い目で見られながらもガッツポーズした俺は間違っていないと思いたい。


 話を戻すと、チュートリアルの推定時間が不明だという話だ。

 これについては、俺としても一切心当たりが無いので……笠木さん辺りに聞いてみるか。

 そうして早速試すのが、メッセージ機能だ。

 フレンド一覧から人を選び、トーク履歴という場所を押すと、まだ真っ白な背景が見えるだけだ。

 しかし、ここから時間が経つにつれ俺たちの仲は深まっていき──


〈お、笠木さん!〉


〈もー、大亜っ!今の私は芽鷺なんだからちゃんとしてよね!〉


〈あー、そうだったそうだった……あはは、どうやっても昔の癖は抜けないな〉


〈……まぁ、分かりますけどね!あはは!〉


〈はっはっはっはっ!〉


──うんうん、良い人生だったな。


 ……ではなく、チャット機能が使えるようだ。

 これからもかなり多用することになるだろうから、今のうちに慣れておこうか。


『どうも、芽鷺です。無事フレンド登録出来たようです。ところでお聞きしたいのですが、チュートリアルの推定時間の表記がされておらず、どれくらいで終わるのか分からないのですが、詳しく分かりますか?』


 っと。

 少し固くなりすぎたかもしれないが、失礼のないようにした方が笠木さんも幾らか気持ちが落ち着くだろう。

 待った時間はおよそ1分程。

 しかしその時間は酷く長く、重いように感じられた。

 ……とはいえ、この世界の時間は現実世界のおよそ120倍の時間で進んでいるので、現実だと0.6秒ほどだったりするんだが。

 こちらの5日で、向こうの1時間というわけだ。

 なかなか便利な世界だと俺は思う。

 で、肝心のチャットの内容だが、


『芽鷺さん、フレンド登録ありがとうございます!……あと、固い言葉は辞めにするって言いましたよね?次から敬語使ったらブロックしかねないですよっ!!』


『さて、本題に入りますがただでさえ謎な主系ジョブです。運営側もその使用方法はしっかりと把握しておらず、ただただ強いということしか分かりません。多分ですけど、一週間程で終わるとは思いますよ?』


 ブロックしかねない……!?!?

 そいつはマズイぞ!

 現代で分からないものは少ないだろうが、ブロックというのはその人とは一緒に遊びたくないという烙印を押されるようなものだ。

 それに配慮して運営はお互いの姿を不可視化したり、攻撃不可にしたりの処置をするわけだ。

 つまりは、チートを使う輩や悪質な行為を頻発する奴らなんかは積極的にブロックをした方が良いということになる。

 とにかく俺は急いでチャットを打つ。


『笠木さんっ!冗談じゃん!敬語はネタで使ってるだけだよって!だからブロックはしないでっ!お願いっ!』


……取ってつけたかのような若者言葉だが、ないよりはマシだろう。

 直ぐさま既読がつくと、チャット入力中との表示が下に出る。


『あはは、何ですかその言葉使い!あー、何か芽鷺さんに合わせて丁寧にしたのが間違いだったかも……w』


『大丈夫ですよ、私は離れていきませんから』


 危ねぇ。

 とりあえず危機は去ったな。

 ……と、そういえばチュートリアルについて聞いていたんだったな。

 履歴をしっかりと見返してみれば、一週間程で終わるとのことなので……現実だと1時間と少しで終わるか。

 ということで、チュートリアル一覧を開いてみる。


─チュートリアル一覧─

1,ログインをしよう

 clear! 報酬 1万G

2,プレイヤーと話してみよう(チャット可)

 clear! 報酬 パーティ機能解放

3,モンスターを倒してみよう

 報酬 ジョブに合うR等級の武具

4,装備を買ってみよう

 報酬 SR絆のブレスレット

5,パーティを組んでみよう

 報酬 ダンジョン機能の解放


職業,NPCからのミッションをクリアしよう

 報酬 1万EXP


 上記の通り、数字が振ってある項目が〈一般チュートリアル〉だ。

 1と2は既に達成しているので、煌びやかに「clear!」と文字が踊っている。

 そして、その横にあるのが達成した時に貰える報酬だ。

 チュートリアル終了後に必ず必要になってくる機能や、この世界で使えるお金、武具等を手に入れることが出来る。

 〈一般チュートリアル〉は戦闘職、生産職に関わらず万人共通で配られており、それに加えて次に説明する〈職業別チュートリアル〉をこなすことが出来れば、チュートリアルは無事に終了するというわけだ。


 早速〈職業別チュートリアル〉について説明していくが、〈職業別チュートリアル〉は〈一般チュートリアル〉と違っていきなり全ての項目を見れる訳ではなく、一つ達成出来れば一つ増え、それも達成することが出来れば更に一つ増えるという表示方法だ。

 つまるところ〈職業別チュートリアル〉こそがこのチュートリアルの要になっていて、まずはいつ終わるのか分からないという焦燥感、そして難易度の高さから心がボロボロになってしまう人も居るという。

 ……そしてそれは、レアジョブになればなるほど大変だという傾向もある。

 度々話に出ている「一週間程かかるチュートリアル」がまさにあるマスター職業ジョブでチュートリアル終了するまでにかかった時間だ。

 現在では世界ランキング1位……だったように笠木さんが言っていた気がする。

 つまり、ゲーム内最強でさえも一週間かかったということは……それ以上にかかる可能性がある俺は世界ランキングのトップに輝く可能性だってある訳だ。

 ……よっしゃ、俄然燃えてきたな。



──

──今週の世界ランキング1位

──


おめでとうございます。

難攻不落城主インプレグナブルキャッスル

秋葉 リオ 様

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