KAC20231 立ち読み警察

白川津 中々

 ウィーン。

 

 自動ドアを抜けこんにちは。

 ここは近所の書店。休日何をするわけでもなく、さりとて家でダラダラとしているのも無為だなと思いよそ行きに着替えて外出するも、どこへも行く当てがなかったため仕方なく目に付いたこの店に入ったわけだが、妙な雰囲気がする。




 今話題のサスティナブル異世界転生! 『俺のスキルはSDG'S! 持続可能な次世代スキルで異世界環境改善化!』 発売中!


 えー!? 高菜食べてしまったんですかぁ!? 昭和の喪板住人が異世界へ! 『異世界いってもお前モナ―~コピペの数だけ能力が使えるってお前それ激しくニンジャ~』




 見渡し気が付く異変の正体。POP広告に「異世界転生フェア」の文字。なるほど、本屋にしては騒がしいと思ったら、ド派手なフォントとカラフルなイラストのせいか。最近流行だもんななろう系。気晴らしに一冊手に取りペラペラ。性に合わず三ページで断念。一行目から擬音を使うな。



「立ち読み警察だ」


「え?」



 突然背後からの声掛け。なんだいったい。



「立ち読み警察だ」


「なんですかそれは」


「立ち読みしてろくに内容も確認しないまま本を戻す人間に対して啓蒙している者だ」


「そうですか。それでは」


「待ちなさい。君、今数ページ読んだだけで本を棚に戻したね? この本、今人気でアニメ化もするってのに、どうしてそんな真似をしたんだ」


「好みじゃないからです」


「なるほど。しかしね。君が立ち読みした事によってこの本は新品と言い難くなってしまったんだ。その責任を取って、買い取るべきじゃないかね」


「そんな事誰でもやってるでしょう……」


「みんなやってるからといって自分がやっていいという理由にもならないでしょう」


「別に法にふれるわけでもなし……」


「法に触れなきゃ何してもいいのか! どんな教育を受けてきたんだ君は!」


「うっさ……」



 妙な人間にからまれてしまった。畜生、外出なんぞせず家でジャンプ+でも読んでればよかった。



「さぁ! 買うのだ! この本を! そしてレビューを書き忌憚のない意見を述べるがいい! それが読書家の務め! 我! 文書ベースの創作界隈を憂うもの也!」


「アニメ化するんでしょう? だったらそっちで観るよ」


「あー君! それは言ってはならんぞ! なんのために作者が書いてると思っているんだ! 文字の表現を大事にしなさい!」


「逆に聞くけど、あんたはどう思うんだ? この作品」


「え? 面白かったよ? ストーリーも重厚だし、キャラも立ってる。商標的には成功だね。個人的にはちょっとキッチェな感じもしたけど、まぁこんなもんだろう」


「ふぅん。じゃあ俺もそんな感じで。じゃあ」


「あ、待たれよ! そんな適当な感想が許されるか! 本を買って、更になろうにも感想を送るのだ! こら! 待てと言うのに! ちょ、店員さん! 店員さーん! この人読み逃げですよー! 逮捕してくださーい!」


「ちょっとお客様静かに……またお前か! 毎度毎度! いい加減にしないか!」


「何をいう! 私は! 書籍文化の保護と発展をだなぁ!」


「いいからこい! 今日こそ警察に突き出してやる!」







 ……連れていかれた。

 さようなら立ち読み警察。二度と会わない事を祈るよ。

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