泡沫くらげ

柊 桃

第1話 始まり

小さい頃の思い出は、母と祖母と私の3人の記憶がほとんどで、父は仕事が忙しくほとんど家には帰って来なかった。

でも、不思議と寂しいとは思わなかった。

何故なら父が休みの日には色んな県の水族館に連れて行ってもらって

朝から晩までずっと水槽を眺めていてのを覚えている。

“これなぁに?”と父に聞くと何でも教えてくれる父の横顔はとても楽しそうでそんな父が私は大好きだった。

小学生になった頃から父の仕事はもっと

忙しくなって、週に3回家には帰ってきてたのが

2回、1回と減っていき中学生になると月に2.3回会えるかどうかまでに減っていた。

久しぶりに家に帰って私を見ていつも言うのが


「水族館行くか?」


で、決まって私は


「行かない」


と答える。


父は、私がまだ保育園児だとでも思っているのだろう。

父の中で私の成長はあの頃のままで止まってしまっているのだ。


だがしかし、私高月 紗 (たかつき すず)は

今日から高校一年生になるし、もう16歳だ。


久しぶりに見た父の顔がしょぼんと悲しそうな顔をしていて真新しい紺色のブレザーを羽織ながら、


「学校だから仕方ないでしょ」



そう冷たく言うと、口を尖らせて



「学校休んじゃえばいいじゃん」



なんて小学生のガキが言うような事を42歳の大人が言っていてはぁ?と顔を顰めた。



「慧人(けいと)さん、紗ちゃん困らせちゃダメですよ」



なんて言いながら花柄のエプロン姿で

お味噌汁をお盆で運びながら言う母、菫(すみれ)に


「菫ちゃん、紗ちゃんが相手してくれないっ!」


なんて駄々を捏ね始める父に

心の中で“また始まった…”と思う。

最近の父はこればっかりだ。

3歳児のイヤイヤ期が42歳になってまたきたようなものだ。



「紗ちゃんも、もう16歳ですよ」



そう言いながらお味噌をテーブルの上に置くと同時にお味噌の具材を見て



「あ!キクラゲのお味噌だ!!」


なんて目をキラキラさせながら母の方を見ながら言う父にニッコリと微笑みながら



「慧人さんの大好物ですもんねっ」


なんてお盆で顔を隠しながら言う母。


世間で言えば父と母は所謂バカ夫婦だ。

子供の前だろうと関係なくイチャイチャする。

まぁもう小さい頃から慣れてるから良いけど…

朝から見せ付けられるのは正直キツい。


イチャイチャしてる2人を他所に

和室の仏壇に手を合わせに行く。


お線香をつけて、手を合わせて目を瞑る。

ゆっくりと目を開けると優しく微笑んでいる

祖母の写真立てが飾られている。


去年の今頃祖母がこの世を去った。

おばあちゃんっ子だった為とても悲しかった。

何より、必死に勉強してきた今の高校に受かってとても喜んでくれたのは祖母だったし

制服姿を見せたかったのもあった。


父と母があんな感じで一人っ子だった為

ほとんど祖母の部屋で本を読んでいたの覚えてる。



「行ってくるね、おばあちゃん」



そう小さく呟いて、まだイチャイチャしてる

2人に行ってきまーすと言いながら家を後にした

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泡沫くらげ 柊 桃 @hiiragi_momo

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