「恋人ができる本」‥KAC20231‥本屋

神美

恋人ができる本

『恋人ができる本』


 本屋に陳列されていた、たくさんの本の中で その本のタイトルが一番目立っていたから手を伸ばした。

 すると、気づかなかったが。隣にいたもう一人の人もそれに手を伸ばしていて、トンと軽く手がぶつかってしまった。


「あ、すみません」


「あ、いえ、こちらこそすみませんっ」


 お互いに痛かったわけでもないのに反射的に謝って手を引いてしまう。


「よければどうぞ」


「あ、いえ、大丈夫ですよ、どうぞどうぞ」


 そう言うとその人はそそくさと離れていってしまった。

 結局気になったものの、本は購入せず、なんとなく気が引けて本屋をあとにした。


 だがどうしても気になって。また翌日も本屋を訪れ、本を前にしてしまった。

 今日こそは買ってみよう、と手を伸ばした、その時――また偶然は起きてしまったのだ。

 全く昨日と同じシチュエーションで。


「わっ、あっ……すみません」


「あ……いえ、こちらこそ、あ、本、どうぞ」


 なんだか恥ずかしい。お互いにそんなに恋人が作りたいのか、と推察してしまいそうだ。

 結局その日も本は買えず、でも気になってしまい……また次の日になってしまった。

 今日こそは絶対に買うんだ。


 三度目の正直。あの本が納められている棚に向かって歩を進める。途中なぜか緊張して深呼吸をしてしまう。

 なんで緊張しているんだ。ただ本が読みたいだけなのに……恋人ができる、本を。


 二度あることは三度あるという。今度は手を伸ばす前に、本棚の前にたどり着いたら、自分が来た方とは反対から、あの人がやってきた。


 出会ってしまい、お互いに「あっ」と声が出て瞬きをしてしまう。

 これは偶然なのか、運命なのか。

 目線はお互いに、ゆっくりとあの本へと注がれる。


 今日は勇気を出して先に進んでみようか。


「あの、良かったら一緒に、読んで、みませんか」


 相手は恥ずかしそうにうつむき、コクンと首を動かした。


 この本はタイトル通りの本のようだ。

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