777

スロ男(SSSS.SLOTMAN)

🍒🍒🍒

 チェリーが3つ並んだところで時と場合によるんだよなあ、と晶は思った。そんなことを考えたのもオヤジがカラオケで渡辺美里を唄ったせいだ。

(なんだあの裏声。キモい)

 キモかったのは裏声だからというよりも単に声が出ず裏返ったせいだったのだが、仮に上手に裏声で歌われたところで感想は「キモい」だったろう。

 とはいえ、現在この状況でなければ思い出しもしないような、ささいなエピソードではあった。

 現在のアラジンを打っている状況でさえなければ。有利区間がそろそろ切れそうな、いまでさえなければ。


 アラジンAクラシック。クラシックと名に付くように4号機爆裂AT機のアラジンAを再現した、パチスロ機である。

 アラジンといえば単チェ、といわれるぐらい狙っても並ばないチェリーこそが当たりの契機であり、並んでしまうチェリーとは雲泥の差なのである。


「どうよ、出てるか?」

 欠伸あくびを噛み殺しながらやってきたオヤジはどうせぽりぽりと腹をいているのだろう。

「見りゃわかんだろ、出てないよ。そもそもおれはこんなんじゃなくてヴヴヴ打ちたかったんだよ」

「ハナハナは空いてっかな」

「あっち埋まってんのは沖ドキぐらいだろ」

「オススメは?」

「237番かな。多分今日はガセんないと思うよ」

「したら、今日は回らない寿司だな」

「どうせ、や台寿司だろ」

「いや本屋の隣の7がみっつ並んだ寿司屋だ」

「え、へい? マジ⁉︎」

 マジもんの寿司屋じゃん!

「マジマジ。大勝利を祈っててくれ」

 肩に手を置いたオヤジにおれはすっと接吻くちづけて、

「勝利のキスだ、ありがたく思え」

 一瞬の間。

「おまえがもっとツンで淡白だったら俺も早起きできたんだけどな」

 腹にヒジを入れてやった。むせながら去るオヤジ。おれにスロとそれ以外の悪い遊びを教えたひどい奴。

よろこびの時間はまだ遠いな」

 おれはひとりごち、レバーを叩く。

 チェリー3つ並ばない、と鼻歌を唄いながら。

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