土岐の殿さまのぬいぐるみ

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

マンガの話のはずがいつのまにかキャラクターグッズの話に

 21世紀の知識を持ったまま戦国時代の美濃に生きている土岐サブロウ頼芸よりのり、稲葉ヨシノ、瀬田チカ、山本カズマの四人組。今日もなんだか怪しげなことを企んでいました。


「情報を制するものは世界を制する!やられる前にやるんだ!」


「センセいきなりなに言うてはるん?」


「師匠、厨二病がこじれてついに世界征服を始める気ですか?」


「サブロウ先生、手始めにどの国から攻めますか!」


「ちがーう!シリコンバレーが情報産業のメッカになったように、戦国時代でも情報を記録できる最先端の媒体、紙を生産できるこの美濃こそ情報産業のメッカになるとは思わないか!」


「「「ああ、そういうことね」」」


「この時代で実現可能な情報産業といえば版元、すなわち出版社だ。俺は美濃で出版社を立ち上げて、マンガ雑誌を発行して自分のマンガをベストセラーにしたいんだよ」


「まあ、センセたち、もともと21世紀でマンガを描いてましたからね」


「でも、サブロウ先生。肝心の本屋さんがこの時代じゃ見かけたことないんですけど」


「そりゃあ識字率の問題よ〜。江戸時代とは違うわ。紙だって貴重品だし、ましてや本はもっと貴重だもの。本を読める人も限られているわ」


「本屋さんがないのも無理もないわけかあ」


「本屋がなくても、桔梗屋ルートで紙を扱う店に流通させようと思うんだが」


「師匠、それはいいんだけど、識字率が低いからマンガも台詞読んでもらえないんじゃない?」


「センセ、コツコツと民を教育してまず識字率を上げるところから始めますん?」


「うーむ。それは逆行転生ものの王道だからやる。やるけれども、俺はそんなに待てない!待ちたくない!」


「わがままね、師匠は」


「そういえば、セリフが全くない強くて目つきが悪い二頭身の恐竜が出てくるマンガがありましたよね」


「ああ、『G◯N -ゴ▷-』だな」


「そうです、そうです。それです」


「ふむふむ。台詞のない絵物語なら識字率関係なくいけるな」


「じゃあ、師匠『G◯N -ゴ▷-』みたいな恐竜の絵物語を?」


「センセ、この時代やと恐竜はちょっと厳しくないすか?」


「ああ、そうか。じゃあ、お化けとか?」


「怖がられるわよ!」


「カワイイものの方がいいなあ」


「それだ!」


 サブロウはなにやら絵を描きはじめた。


「できた!」


「師匠、それってまさか・・・・・・」


「八郎規定である」


「サブロウ先生、たしかにカワイイですけど」


「八郎規定である」


「いやいやいや、誰がどっから見ても、ハ⬜︎ーキテ◁」


「読み違いだ。ちなみにこの猫はオス猫だ。その名の読み方は八郎規定はちろうのりさだである。八郎規定はろうきていなどと読んではいけない!」


「師匠訴えられますよ」


「大丈夫だ。そもそもこの戦国時代には著作権法どころか裁判所もない。そもそも俺を訴えようとする、その会社そのものがないのだ!」


「「「あっ!」」」


「俺は自由だ!もう『お願いだから訴えないでください』と言う必要もない。パロディーだろうが、パクろうがトレースだろうが誰も俺を止められないのだ。この時代なら、すべてのキャラクターデザインも商標も、名称も早い者勝ち。使いたい放題だ」


「サブロウ先生、なんて恐ろしいことを・・・・・・」


「手始めは八郎規定からだ。コイツは20世紀でも21世紀でも世界的にヒットした実績がある!」


「うわあ、ついには堂々と実績があるなんて言い始めたよ」


「絵本にぬいぐるみ、もろもろのキャラクターグッズでがっぽがっぽ儲けてやるのだ!次は十十郎じゅうじゅうろうだ。これも十十郎ととろうと読んではいけないぞ。そして最終目標は不出尼いでずにのキャラで世界を支配するのだ!ああ、これも不出尼でずにと読んではいけないぞ。著作権にうるさいくせに、我らが大先輩の作品を平気でパクった会社の名前みたいで不愉快だからな、わははははは」


「アカン!目がイってもうとる。センセが暴走し始めた!このままやとこの世界が崩壊してまうぞ!」


「でもどうやったら師匠を止められるの⁉︎」


「わたしがサブロウ先生を止めます!」


「「ヨシノさん!」」


「サブロウ先生!」


「なんだ?ヨシノ」


「先生は明るい家庭を築くために、みんなで戦国時代にタイムリープしたんですよね」


「もちろん、そうだぞ」


「この時代は週刊マンガ雑誌も月刊マンガ雑誌もないから、締め切りに追われなくて良いですね。ちゃんと家族と一緒にのんびりできる時間も作れますから」


「そうだなあ」


「好きなことをやってのんびりできるだなんて素敵です。でも、せっかくのスローライフも、面白くもないコピー商品のせいで時間に追われて家族の時間が取れなくなったら台無しですねえ」


「そうだなあ。それはつまらないなあ」


「マンガのネタはおいおい考えるとして、パロディ商品はやめましょうよ」


「本当にそうだなあ。うむ。わかった」


「この猫ちゃんはカワイイんですけどね」


「せっかくだから、お涼さんに頼んでヨシノとチカの分だけでもぬいぐるみを作って貰おうか」


「わあ、嬉しい!ありがとうサブロウ先生!」


「助かったあ!」


「さすがはヨシノさんや!サブロウ先生の暴走を見事に止めよった!」


「みんなすまなかった。つい頭に血が昇って我を忘れてしまった。本末転倒だな」


「「「よかった、よかった」」」


 こうしてサブロウの暴走は無事沈静化した。


 ヨシノとチカはサブロウの謝罪とともに、どこかのキャラクターと瓜二つの八郎規定のぬいぐるみを手に入れたのであった


 めでたし、めでたし。

















(働きすぎちゃいかんな。ライバルはこの時代にいないから焦っちゃいけない。まずは絵師の弟子を育成だ!そして俺はキャラデザとプロットだけ作ってあとは弟子に丸投げしよう。おれは鵜飼のように、弟子を働かせて楽して儲けるとしよう。十十郎じゅうじゅうろう不出尼いでずにのキャラで儲けるのはそれからだ)


 サブロウはみんなに見えないようにこっそりと悪い笑みを浮かべていた。


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土岐の殿さまのぬいぐるみ 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

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