【KAC20231】そーだ、本屋へ行こう

ぬまちゃん

俺も本持ってます、って言いたい

「おい、聞いたか? 隣のクラスのQ太郎、学年一の美少女、我らが憧れの存在でもあるA子さんに告白したんだってよ」

「え? まじかよ。今までも多くの男子が、しかも学年カーストの上級者達がチャレンジしたのに、ことごとく玉砕したって噂の、あの女子だろ。それが学年一のモブ男であるQちゃんがチャレンジしたのかよ。まあ、当然悲しい結末が待ってたんだよな」


 食事が終わってまったりとした空気が流れている、ぽかぽかと日の当たる教室のすみの方で、男子高校生が二人食後のペットボトルを傾けながらひそひそ話を繰り広げていた。


「そこだよ、そこ。聞いて驚けよ。なんと、あのQちゃんてカクヨムコンで入賞した実力者なんだと。それで、学年一の美女は、あっという間に……」

「なんだよ、カクヨムコンて? それって美味しいのか」


 飲み終わった自分のボトルを机の上に置きながら、片方の男子が質問する。


「あのカドカワ出版のネット小説向けコンテストよ。そんなことも知らないの? そんなことだから、クラスの女子達にもてないんだよ、君って」


 そんな男子の後ろから、食べ終わったお弁当箱をかたずけている幼馴染の女子が声をかけて来た。


「そーだ、そーだ。お前も、少しラノベでも読んだらどうだ? そーすれば、女子とお友達になれる機会が増えるんじゃないか」

「そーよ、そーよ。アタシだって、小脇に本を抱えたインテリな彼と二人で公園を歩いてみたいわよ」


 二人から攻められた彼は、すこし反発するようにしてカバンから雑誌を取り出す。


「うるさいなー、俺だってほら、本読んでるし」

「ちがうのよ、雑誌じゃなくて、ちゃんとした文庫本を持ってきなさいよ。あ、それにちゃんとブックカバーもして。ネット通販とかで買わないでね」


 幼馴染にけちょんけちょんに言われた彼は、両手をあげながら天井を見上げる。


「わーかーったーよー。学校帰りに駅前の本屋で何か買うから、付き合ってくれるか」

「うーん。アタシも忙しいんだけど、君の頼みだ、仕方がないわ。本屋まで付き合って、君にあった本を探してあげよう」


 彼女は、上気して嬉しそうな顔を彼に見られないようにするため、教室の窓の外を見上げた。


(了)

 

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