こんな本屋は嫌だ
薮坂
コント「本屋さん」
「あれ? 駅前にこんな本屋あったっけ? 小さいけど本格的な雰囲気のある店だな……。お、看板掲げてる。なになに? 『本の多い本屋です』? いや本屋だから当たり前だろ? まぁ、よくわかんないけど入ってみるか」
ガララララ
「へいらっしゃい! お一人様が寂しく御来店でェす!」
「ラーメン屋の大将みたいな人が出てきたよ! あと失礼だな、いきなり面食らったわ!」
「いやぁスイマセン、ウチ、
「いや麺屋のほうがまだ納得できるよ! あと腕組まなくていいから! その姿、まんまラーメン屋の大将だから!」
「アタマにタオル巻いときやしょうか? 黒色の」
「いらないよ! 余計ややこしくなるから!」
「ところでお客さん、ご予約の方で?」
「え、まさかの予約制? たまたま見かけたから入ったんだけど……」
「それじゃ飛び込みのお客様で?」
「あぁはい、そうなりますね」
「飛び込み一丁入りましたァ‼︎」
「声がデカいな! あと誰に言ってんだよ! 店員さんあんただけじゃん!」
「まぁまぁお客さん、細かいことは抜きやしょう。とりあえず生でよろしいっすか?」
「生! ここ本屋だよね⁉︎」
「ウチは飲める本屋なんすよ。お仕事帰りでしょ? さぁさぁ座った座った、カウンターへどうぞォ!」
「カウンターってサービスカウンターじゃん! 横にレジあるじゃん! あとどう見ても椅子がない!」
「当店自慢、北欧から取り寄せたエアー・チェアーでございやす」
「空気椅子だよなそれ!」
「ささ、どうぞどうぞ。生お待ちィ!」
「本当に生が出てきたよ! 泡がキメ細かくてそこらの居酒屋より美味そうなビールだなおい!」
「ユウヒ本生スーパードゥルァァイ、でございやす」
「言い方クセあるなぁ……、まぁいいけど」
「お客さん、お待たせしやした。本日のお通じでございます」
「おつうじ! お
「お客さん、ウチは飲食店じゃなくて本屋ですよ」
「本屋に生はない! お
「でも本屋に行くと催しません? お
「確かにね! わかるけどね! 不思議だよね! でも今それ関係ないよね!」
「まぁまぁ落ち着いて下さいよお客さん。そんな話してりゃあウマい料理もマズくなっちまうってもんでしょう」
「いや話振ったのはそっちだから! あと本当に本屋なのここ⁉︎ 今『料理』つったよね⁉︎」
「やだなぁお客さん、本屋ですよホ・ン・ヤ。看板も出てたでしょ?」
「確かに出てたけど……」
「ウチぁ『世界イチ、本の多い老舗の本屋』でやらせてもらってるんですよ。昨日からね」
「歴史浅いなおい!」
「だからそんじょそこらの本屋と一緒にされたら困っちまう。他店との差別化をはかるため、ウチでは酒も出すし小料理も出すんです。でも本質は本屋だ、そこは曲げらんねぇとこなんすよ」
「でも本ないよね! あるように見えないんだけど!」
「ありますよ?」
「出てきた本のタイトルが『はじめての料理』! レシピ本じゃねーか! 本格的な雰囲気なのにあんた初心者かよ!」
「忙しいお客さんだなぁ。まぁまぁ落ち着いて、まずは生をぐぐっと。この一杯はサービスですから」
「サービス? まぁ、確かにツッコミすぎてノド渇いたし、そんじゃありがたく……」
「で、ご注文はなんにしやしょう?」
「まさかの注文制? いや、何があるのかさえわかんないんだけど」
「大抵のものは揃ってますよ。まずは『本日のおすすめ』にしときます?」
「じゃあ、とりあえずそれで」
「本マグロ一丁いただきましたァ‼︎」
「本マグロ! 本だけど本じゃあない! ていうか何それ駄洒落かよ!」
「うるさいお客さんだなぁ。本マグロつってんだから本でしょうよ。本カツオも本ズワイガニも本でしょう?」
「魚介類ばっか! 寿司屋かよ!」
「ところでお客さん。本って不思議じゃあないですか? 本だから一本二本って数えるのかと思いきや、一冊二冊と数えるんです。どうしてだかわかりますか?」
「言われてみれば確かに……。何で?」
「知りません」
「知らないのかよ! 何でハナシ振ったんだよ! ホントに本屋かよあんた!」
「本屋です。世界イチ、本の多い本屋ですよ」
「だから本なんて一冊もないじゃないか!」
「いえいえあるんですよコレが。私の名前聞いたら、みんな納得しますから」
「え、どう言う意味?」
「私の名前、
「しょーもな! なんだよそれ! もういいよ大将、おあいそね! あ、本屋なのに『大将』とか『おあいそ』とか言っちまったよクソォ!」
「お
「もうそのネタはいい! 大将、もう帰るよ俺!」
「いやぁ、さすがだお客さん。間違ってないですよ。これがホントの『
「ホント何屋なんだよここ!」
【終】
こんな本屋は嫌だ 薮坂 @yabusaka
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