古文書が好きなだけ。ー古本屋のトイレに行ったら、なんか変なとこに繋がった?ー

るるあ

ただ、古文書が好きなのだった。

 用を足して、手を洗う。

 しかしあれだ、本屋に行くとなぜ、もよおすのかね?なんて考えながら扉を開けると。


 「…はぁ~。そう、きましたか…。」


 本屋さんのトイレから出たら、そこは…


 まるで、古代遺跡…?ピラミッド内部?のような…

 そう、アレだ。ダンジョンだった。


★☆★


 私はしがないサラリーマン。

 ただ、紙の本、古くからの書き付けを何よりも愛するサラリーマン。


 なんとか仕事を終え、徹夜明けの重い身体をひきずって、馴染みの古本屋に行く。

激務の時期、特に決算業務後は、やはりここにお邪魔しないと。


 経理部で、係長補佐という名の究極な中間管理職として上下からの板挟みな中、業務と格闘する日々…だったはずが、何故か、総務部文書管理部門との兼任に。

 通常業務を終えた後、大量の帳簿や保管年度が違う各種書類を差配する、私。これがまたね、大正の頃から蔵に仕舞われているような文書だという、よくわからない事態…。

 いやまさか、会社の古本愛好会で話が弾むおじいちゃんが、我が社の会長様だなんて。大学院の専攻とか研究職の時の古文書解読とか、今でも古本屋巡って趣味で集めてるとか、行きつけの古本屋のご主人が会長の趣味仲間で資本金出してるとかまぁなんというか…ね。

 ご縁ができてしまって仕事増えて。いやいや、仕事だけど古文書解読的な要素満載で、趣味に給料出るとかどんなご褒美ですか?というね…。で、徹夜くんにね。なるよね。

 仕事で帳簿整理という名の古文書を堪能して、さらに古本屋にまで、って?

 いやいや甘い物は別腹ってあるでしょ?それですよ!だってお店のご主人に、とっておきのがあるって言われたらそりゃあねぇ!疲れも忘れるってものですよ!


 で、とりあえずお店の中をぐるりと一周。ふむふむといつもの本たちを確認しているとまぁ、行きたくなるわけですね、トイレ。

 で、やっとご主人の所へご挨拶、お手洗いお借りしますと個室へ入る訳ですね。

 それで…



★☆★



 「……私の古本は、どこに…?」


 石造りの薄暗い、扉の外を呆然と眺める。

 扉を開け、ドアノブを掴んだまま途方に暮れる。


 ふと後ろを振り返れば、そこはまだ、トイレである。


 「ふむ……。」


 石造りのダンジョン?に踏み出してしまった足をそっとトイレ側に戻し、扉を閉めてみる。


 「………。」


 しばし待つ。


 「……、……。」


 ドンドンドンドンドンドン!!!

 「おーい!!あんちゃん!!またトイレで寝てねぇだろうな!?大丈夫かー!?」


 !!

 古本屋ご主人の声!


 「だ、大丈夫です!すみませんが扉を開けてもらえますか!?」


 「おいおい!もう用足しは終わってるんだよな?開けるぞ〜!」


★☆★


 という訳でまぁ、なんとかご主人秘蔵の古文書は見せて頂けたんですよ。いや〜良かったよかった。

 えっ?石造りの?ダンジョン…?

 やだなあ、そんな危険そうな所に行くわけないでしょう?私は古文書を見に古本屋に行ったんですよ?

 いやね、確かに何度か会社のドアでも、あの石造りの薄暗い所に出ましたけど…。決まって繁忙期なんですよねぇ。私、先日オークションで落とした古文書のローンがまだ払いきってないから、無断欠勤とかマズいんですよ。皆勤手当とか、けっこうバカにできないですよ!

 ……えっ?会長、ダンジョン的なあそこでこのパピルス?羊皮紙?見つけたんですか?!へぇ〜。ほお〜。


 はぁ、人を選ぶダンジョン?呼ばれてる?


 うーん、じゃあ、次のボーナス出た後あたりで、まぁご縁があったら行ってみますね〜。



 









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古文書が好きなだけ。ー古本屋のトイレに行ったら、なんか変なとこに繋がった?ー るるあ @ayan7944

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