第14話 訓練開始

 

 神獣たちがいた森に張る結界(神獣が許可したものしか入れないとか、結界を攻撃したらその攻撃は反射してしまうとか色々とんでもない効果があり、破壊されにくいとかなんとか。)を開発したというグレナについていき、結界を張る場面を見てから迎えにきた理事長の転移魔法で帰ってきた。

 

 王宮へと帰ると、朝帰りしたことを兄姉たちに揶揄われてしまったが、グレナに頼まれたことをまっとうするために文句を言う前に、父と二人きりになるようにしてもらった。そして、あの森に神獣たちがいたこと、昔の王族たちが神獣たちを守るために情報操作していたこと、それが秘密裏だったこと、その神獣が襲われたこと、襲った国がピスケル王国で、魔族の関与が疑われることを話した。

 

「神獣がいたことも驚きだが、お前が好いている女性が神獣たちを守る者で、そのものたちに手を出した輩に魔族の関与の疑いがあるとは……お前とんでもない情報を持ち帰ったものだな……」

 

「あはは……それについては同感だよ……」

 

 俺が父上の立場なら、現実逃避したいくらいには情報量が多いしね。

 

「しかし、あい分かった。貴重な情報をありがとう。それにしても、シドニスの好いた女性にも会ってみたいものだ。あれだけお前が啖呵切ったんだから、相当なのだろうと思っていたが、俺が思っている以上のようだ。」 

 

「グレナが聞いたら、ハードル上げてんじゃないわよ! って怒られちゃうな。」

 

「ははは。それは仕方なかろう。家族思いのお前が家族よりもと、選んだ女性なんだからそう思ってしまうのは仕方あるまい。俺としては、王族として迎え入れても良いと思っているのだが……」

 

 身分を気にしない父ならばそういうと思っていた。しかし、

 

「王子妃としてのマナー講習が、市政で育ったお嬢さんだときついだろうからなぁ……それで逃げられたくはない。」

 

 どうしよう。それについては、あまり心配いらない気がする……グレナには、必要なら教えてもいいって言ってたけど、これを告げたとしてグレナが王族に入ってくれるか……無理だろうし、グレナが無理するなら絶対になしだ。

 

「なんだ、何か言いたげだな。」 

 

「実は……」

 

 かくかくしかじか、グレナの身の上話を聞かせると。

 

「王子妃教育よりも、王族になることを嫌がりそうなお嬢さんだ……」

 

「だよね。」

 

 父上が遠い目をして残念そうにしていた。これは仕方ない。

 

「エレナーデ理事長の姉君だったのか。惜しい人材だったな……」

 

 理事長と関わりがあるからこそ、その理事長が敬愛するグレナの力は信じてくれたし、信用してくれた。俺と結婚すること自体はまったく異論はなさそうだったから、安心した。

 

「私の義理の娘……と言っていいものか……立場としてはそうなる予定のお嬢さんのことは大事にしたい。神獣は元から危害を加える気はないが、友好的な関係を築きたいものだ。」

 

 父上ならそう言ってくれると思っていた。

 

「その言葉、ちゃんとグレナたちにも届けるよ。」

 

「あぁ。頼んだぞ、シドニス。」

 

「父上も、対策はとってくださいね。」

 

「当たり前だ。私を誰だと思っている。」

 

 不敵な笑みを浮かべて俺の軽口を一蹴した。

 野生的感でこれまで色々なことをして成功した人だ。人に対しての感も働く。父上に限ってはないだろう。根拠のない自信だけど、なんとなくそう思えた。

 

 

 

 

 


 私は、学園の書庫、正確には厳禁書庫という場所に、エレナからもらっていた鍵を使って来ていた。私が見ていたのは、現在の王族に関連するもの全部だった。

 

「やっぱり、そうなのね……」

 

 調べたいことがあって、調べていると、すぐに結論は出た。驚くべき、いや、喜ぶべきなのか。

 

 私は安堵のため息をついて書類を片付けて行った。

 

 

 

 

 

 

 未来のために、私はやることをやる。

 

「今日から事前に知らせていたように各十傑のメンバーに鍛えてもらう。名前が書いてある人物の元へ行き、訓練してね。この子達の手綱を握ってくれちゃってもいいわよ! 私が許可するわ!」

 

 グレナがサムズアップをして生徒たちに言うが、手綱握れって、それでいいのかと思ってしまった。

 

「私たちは元貴族で、今は平民よ。あなたたちが畏まる必要ないわ。かと言ってバカにしてると痛い目見るけれど。」

 

 流石に十傑をバカにする奴はいないだろうと思う。まぁでも、必要以上に畏まられてもめんどくさいってところだろう。グレナが書いたであろう俺たち生徒の名前と、師事する十傑の名前があった。大体一人につき、生徒は3名らしい。グレナには俺とアリサ、イズアルトの名があった。

 

「グレナ、興味本位で聞くけど、これってどういう基準で選んだの? 成績順とか、同じ魔術属性ってわけでもないよね?」

 

「そうねぇ。グループによって基準が少しずつ違うのよ。例えば、ここ。ヒーデリックとユリアステ。ヒーデリックのところは、ヒーデが好きそうな美人と美少女であり、可愛い物好きな生徒。んで、ユリアスはまぁサボり癖手抜き癖が一番ひどいから、尻に火をかけてくれそうな子を一人と、その間を取り持てそうな子を一人入れた。」

 

「え?? そんなところで?」

 

「性格の合う合わないは重要よ? ヒーデなんかやる気起こさないもの……」

 

「ユリアステ殿のところは正反対じゃない?」 

 

「ユリアスはそれでいいのよ。あの子には苦労をかけるだろうけど、気の強い女の方がユリアスは興味持つから。」

 

「なるほ、ど?」

 

「まぁ、なんだかんだ言って、尻に敷いてくれる女の子がいればユリアスはやってくれるし、この組み合わせが一番、みんなが最短で強くなれるわ。」

 

 諦めなければね。という注意書きはあるものの、これで全員が一年で開花するのか。本当かなと思いつつ、グレナの言うことだから、騙されたと思ってやるしかないな。

 

「それじゃあ、各自、紙に書かれた訓練場へ向かってね。」

 

「あの、先生? 私たちはなぜカフェなのでしょうか……」

 

「ごめんね……ヒーデは甘いお菓子と可愛いものに目がないから、何かをする前は大体私がおすすめした場所で食べてるわ。今もいると思う。だから、申し訳ないんだけど、お迎えに行ってくれないかな……」 

 

「そういうことでしたら」 

「了解致しましたわ。」

 

「あ、そうそう。好きな場所で訓練していいわって、ヒーデに伝言をお願いしてもいいかしら。」

 

「わかりました。では、行ってまいりますわ。」

 

「気をつけてね。」

 

 ヒーデ組を見送っていると、ほとんどの生徒が移動をしていて、私たちが最後になっていた。

 

「さて、私たちも行きましょうか。」

 

 3人でグレナの後をついていくと、学園の中では一番高い塔、理事長しか入れない場所までやってきた。ここは理事長の許可なく入ることはできないが、グレナは違うようですぐに扉が開いた。

 

「こんなあっさりと……」

 

「言っとくけど、無理やり入ろうとすれば気絶程度に雷攻撃されるから。」 

 

「こっわ!」

 

「物騒ですわ!」

 

「エレナだけが入れる場所は基本的に機密情報がたくさんあるから、それ目当てだとすればほぼ敵ってことで間違いないわ。敵じゃなくても正攻法で来なかったのだから当然ね。」

 

 確かに。無許可で侵入となると敵しかいないだろう。理事長を敵に回るという命知らずは生徒にはいないだろう。普通に生活していれば入る必要性はないし。

 

「それもそうですわね。」

 

「そうそう。さ、ここを登るわよ。」

 

「グレナ先生、登ってどうするのですか? 訓練ができるような広い空間なんてないように思えますが。」

 

「私は一言もあそこで訓練するなんて言ってないわよ。塔を登る理由は、エレナの転移陣を利用するためよ。私も転移魔術は使えるけど、自分一人か他人一人だけならまだしも、自分と複数人を同時に転移させるような高性能じゃないのよ。」

 

 グレナの体のどこか、手を繋いでいたりグレナが抱えてるものはその限りではないそうだ。そうじゃないと全裸の状態で向こうに行くことになるらしい。だだ、その場合、その分の魔力は使うらしく、持っているもの|(触れているもの)の重さが重ければ重いほど転移には負担がかかるらしい。

 

「大人3人くらいじゃ対して負担にはならないけど、疲れないわけじゃないのよ。だから、エレナの転移陣を利用する。」

 

「理事長の許可はあるんですよね?」

 

「私はここにくる前からエレナには学園内の自由を保障されてるから、学園内は好き放題歩き回れるわ。理事長の許可がない場所なんて向こうから開けてくれるもの。」

 

「さすが、グレナ先生には甘い理事長だね。。」

 

「本当にね。まぁ私は助かるけど。無理やりこじ開けなくて済むから。」

 

「え?」

 

「あの子が私に許可を出した理由は、私を信頼してるからもあるけど、私にはあの子の結界はあってないようなもの。私は結界を解除するのは大得意だからね。それをわかってるから、エレナは私に最初から動き回れるだけの許可を出したの。」

 

「そもそも、理事長の結界を解除って……本当に規格外ですわね。たまにグレナ先生は人間じゃないのではないかと思いますわ。」

 

「褒め言葉として受け取っておくわね。」

 

「えぇ。最大級の褒め言葉ですわ……こんな方たちと肩を並べられるのかしら……」

 

「俺もそう思うけど、騙されたと思ってやってみるしかないよ。グレナは嘘はつかないからね。」

 

「そういうこと。さ、ついたわよ。エレナの転移陣。」

 

「これって、どうやって使うの? 理事長なら自分だけしか使えないように細工してるように思えるけど。」

 

「あなたたちに教えたわよね。個人の魔力は少しずつ異なるのだと。」

 

 いつだったか、魔道具には使用者しか使えない制限をつけているものがあって、どういうふうにしているのかと聞いていた生徒がいた。その答えが、個人の魔力にはそれぞれ小さな齟齬があり、それを波長という。昔の賢者と同等の力や器用さがあれば、誰が発動させた魔術なのかを見極めることもできる、と。使用者制限がある魔道具はその性質を利用しているのだと。

 

「私たちはそれを魔力の波長と言ったわね? その波長を合わせるのよ。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 魔力の波長を合わせる?! そんなことはできないって、言ってましたよね?! 多少似せることはできても、本人と同じにはならない、と……まさか……」

 

 魔力の波長が似ていることはよくある。大体は血縁関係があることだ。だけど、似ているが波長が同じというわけではない。双子でも限りなく同じに近いが同じではない。それに、波長を合わせるなんてできるわけがない。普通なら……

  

「ふふ、そのまさかよ、イズアルト。私はその波長を完璧に合わせられるわ。エレナと私は姉妹であり、合わせるのは歩くことよりも簡単よ。」

 

「つまり、波長を理事長と同じにして、転移陣を?」

 

「そういうこと。それじゃあ行こうか。」

 

 グレナの指示に従って魔術陣の中に入ると、すぐに景色が変わった。どこかの荒れ果てた荒野みたいだ。

 

「懐かしいわねぇ。ここは、私たちが新しい魔法を使う時と、本気で魔法を使うための訓練場のようなものよ。元々は、私の領地だった場所なんだけど、色々あって住めなくなっちゃって移住して、今ではこんな状態。未開の樹林のその奥にある場所よ。」

 

「未開の樹林のその奥って、こんなことになってたんですね……」

 

 未開の樹林とは、王国の南に位置する、植物系の魔物が棲息する場所で強さはそこまでではないが植物というだけあって倒すのが難しい。切っても切っても地面からの水分を吸って生やす。接木の要領で再生してしまうから、キリがなく、完全に燃やすしかない。しかし、そんな森で火なんか使ったら一瞬で山火事になり、危険になる。普通の生物もいるし、木は資源にもなるから勿体無いので、そんなこともできなくて放置されてしまっている。強い冒険者はその限りではないが、襲われても逃げられる実力がないときつい。

 未開とは、そのまま未開拓の場所ってことだ。その奥は行ったものはいない。いても帰ってこないだろうと言われている。

 そんな場所の奥にまさか、転移できるとはね……

 

「もしかして、ここはグレナが生まれた故郷なのか?」

 

「ううん。ここから数日は歩かないと無理だよ。……それに、行ったところでまともに暮らせるような建物なんて残ってない。」

 

 ここじゃないどこか遠くを見るグレナの表情は苦しそうだった。今にもどこかへ消えてしまいそうな、そんな顔だった。

 

「……グレナ?」

 

「あはは、やだなあ、何百年前だと思ってんのよ。手入れのされてない建物が今も無事なわけないでしょー。さて、それじゃ、早速やろうか。」 

 

 この数日後、この領地が魔族との戦争で最前線となった場所だと知り、見に行くことになるとは思いもよらなかった。

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不老魔術を施した見た目少女は、学園で恋をする。 結里 @megumi-1224

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