アカシックレコード、今日も解読者は無し。

あんだめる、又は中力粉

第1話 第3598258冊目の日誌を書きながら

宇宙の片隅に、古代現代未来、本のことならなんでもござれ!が売りの本屋があった。


ここ、「アカシックレコード」である。


なんでも昔はちゃんとした本屋としての名前があったという。ただ、ここには大昔から「アカシックレコード」があったので、「まだここのアカシックレコードは解けてないのかい?」「あそこのアカシックレコードさあ、」なんてみんなが言うもんだから通称として広まっていってしまったものを店の名前にしている。何代前からかは定かではない。


大きな石柱があり、その柱の表面には細かな傷、否、まだ解明されていない言語が刻まれているのである。

言語学者をはじめ、トレジャーハンター、宇宙海賊、フォーティーナイナーズ(49世紀組。謎解き文化が再加熱したことに由来する)がこぞって解明を試みたが未だに解かれていない。

そして、今日も今日とて謎に挑むものが現れる。

石柱は本屋のど真ん中に鎮座しており、本屋に来た客なら誰でも解読を試みることが出来る。広い本屋の真ん中に階を貫いて浮いているソレはフォトジェニックスポットである。

レジ横には解読に必要な辞書と、ポストカードとキーホルダー、石柱を模した消しゴムやクッションなんかも売られている。本屋のくせに商魂逞しい。


「この『柿』と『杮』は違う文字なんだろ?」

「『l』と『I』もだ。違うという前提で解くべきだ」

「全部大昔に廃れた文字を繋ぎ合わせただけだ。解読する術はあるはずなんだが…」


大きな石柱に所狭しと刻まれた色々な廃れた言語を、こんな風にみんながみんなバラバラに解くもんだから今日も今日とて辞書が売れる。本屋として正しい姿である。


閉店の時間がやってきてオールド・ラング・サインが流れるとその曲に追い立てられるように客が店を出る。現店主は今日の決算書を記入すると、客から聞いた噂話やニュースにならない小さな事件などを日誌に書いていく。ここでは1番重要な仕事である。


…初代アカシックレコード店主は閉店の危機に直面していた。店を畳む方の閉店である。何か、何か良い案はないものか、と思案した結果があの馬鹿デカいアカシックレコードなる石柱である。実はアレ、ただの石柱に膨大ないたずら書きをしたものである。本の知識だけは豊富な初代店主がノリノリで制作したものが人を呼び、アカシックレコードと呼ばれ、いつしかその冗談を真に受けた客が解読をし始め、広まり、今に至る。


代々店主は日誌を細かく記入する。それが後々アカシックレコードになる事を祈って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アカシックレコード、今日も解読者は無し。 あんだめる、又は中力粉 @__mell

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ