ブックストア・テンプテーション

ムタムッタ

本の誘惑には勝てない


 本屋というのは魔境である。






 いや、命が危ないってよりは財布が危ないって意味で。


 普通の書店でも、ショッピングモールの中にある本屋でも、本の誘惑にはよく負ける。ある意味危険な場所ということに違いはない。



 さて、今日は何か買おうかな?

 それとも立ち読みだけして帰ろうかな?


 まぁ前買った本がまだ残ってるし……様子見ぐらいにしておくか?



 小説のコーナーへ辿り着く。

 別に作家のファンではなく、タイトルなどその場のフィーリングで決める。棚にある一冊を手に取り、ふと読んでみる。これが面白い。


「お、これ良さそう」


 いい出会いだったな。この一冊を買おう。いい出会いだよ……そう、そこで終わればね。


「お、隣のやつも面白そうだぞ?」


 やめとけ。と心は警告。

 でも買う予定の本はキープしてもう一冊。


「うわ、これも面白そう……買っちゃえ!」


 あ、やば。

 まぁ一冊くらいなら……そろそろ会計に行こうか?


 なんて思ってても物色するのが本の虫。今度は違うジャンルに向かう。


 棚の背表紙ではなく、今度は平積みの表紙で手に取る。予想通り、序盤から気になる展開。


「う〜ん……二冊も三冊も変わらないか」


 はい、お買い上げ〜。

 こうなったらブレーキは壊れたも同然。既に本の魔力に屈している。


「三冊買ったんだからもう数冊買っても変わんないって」


 あぁ、堕ちたな。

 心の中で確信する。彼、彼女達の誘惑には勝てない。みんな読んでと手招きしている。


「しばらく読書してなかったし、いっぱい買っちゃおうか!」


 文芸、ラノベ、話題の作品エトセトラ。なんでもいい、とにかく呼ばれているから手に取る。


 手で抱えるだけでは足りない。かごに本を積み、本屋という魔境を突き進む。


 収穫だ。一冊どころか面白そうな本がいっぱいあったぞ。


 などど呑気にレジでバーコードが読み込まれるのを眺めていると、会計の表示に目が飛び出る。


 こんなに買うつもりだったかな……?


「まぁ……いっか!」


 さよなら諭吉。

 ようこそ素敵な本たち。


 素晴らしい読書ライフがここに始まる。



 なお……それらを読み切る前に同じことが起きるのは、言うまでもない。



 これが本屋の醍醐味だ!!


 醍醐味……なのか?

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