第4話 100年より長い1年間
紙で出来た球体の穴から漏れる光は小さな本屋のあらゆる場所を照らしている。
使い慣れたカウンター、綺麗に並べられた本棚、ゆっくりと談笑できる開けたスペース。床も天井も満遍なく星のような光で埋め尽くされている。
「綺麗だな……あっ!」
私は知らず知らずのうちに声が漏れてしまう。一緒に見た、オリオン座もきちんと再現されている。
「すごい…すごいぞ…なぁ?」
「……」
本屋の中ではただ一人のエルフの女性の声だけが響いていた。
「いらっしゃい…どんな本を探してるんだ?」
「えっと…魔術の本とかって置いてますか?」
「ああ、それなら一番奥の本棚の手前にあるよ」
「ありがとうございます」
おそらく初めて訪れるだろう青年はそのまま本屋の奥に行ってしまった。今、本屋にいるのは今来た客と私だけ。
あの日以来、店の名前を変えた。今まで特に名前も付けていなかったが、私は店の前の看板に名前を書いた。
プラネタリウム書店
この世界では聞き覚えのない単語を使った名前だ。あいつが教えてくれた言葉。
「どこにいるんだ?」
周りの人には絶対に聞こえないくらいの音量で囁く。
今、この店にいるのか?それともお前が来たと言っていた元の世界に帰ったのか?はたまたもっと遠くの世界に行ってしまったのだろうか?
その囁きに対する返答が帰ってくることはない。あいつは一年足らずで私の元から去ってしまった。
人間の五倍長生きするエルフにとって一年なんてほんの一瞬だった。あいつと一緒に見た星空、ともに本について語り合った時間、そして完成した偽物の星空を見た夜
いままで数百年の時を生きて来た自分にとっては些細な時間に変わりはないはずだったのにあいつと一緒に過ごした一年は100年よりも長く感じた。
「すいません、ここって本屋ですか?」
「あぁ…どんな本でも置いてあるよ」
プラネタリウム書店
営業時間 10時30分~18時30分
定休日 月曜日
異世界本屋でプラネタリウムを見る 広井 海 @ponponde7110
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