その本屋を思う

榮織タスク

今は焼き鳥屋になっている

 新越谷駅のすぐそば、武蔵野線の高架下。

 私が学生の頃、そこは個人で経営している書店でした。

 その頃はまだ駅の周りに本屋が何軒もある頃で、東口側に一軒、エキナカに一軒、西口側にも一軒ありまして、その店は西口側の店だったのですね。

 今ではエキナカの一軒だけが生き残っておりまして、本屋なるものの衰勢に思いを馳せずにはいられません。

 三店舗の中では最も狭い店で、お年を召したご夫妻が経営しておられました。

 ちょくちょく立ち寄る私のことを覚えていてくれたようで、「いらっしゃい学生さん」と気軽に声をかけてくださったこと、懐かしく思い出します。

 学生時代の数年間は、通う本屋は間違いなくそこだけでした。もう店の名前も覚えていません。ポイントカードもなく、店も狭く、今思えば品揃えもよく分からない。それでもそこに通ったのは、何より雰囲気が自分に合っていたのだと思います。


 店が閉まった前後のことは、あんまり覚えていないのです。

 店を閉めるよと言われたような、特に話もなく突然閉まってしまったような。

 どちらにしても、通い慣れた日常のひとつが消えてしまうことが、とても残念だったことだけは覚えていて。

 程なく、本屋は焼き鳥屋になりました。駅の近くでしたから、ちょうど良かったのでしょう。それ以降は一度も行っていません。別の場所でふたたび本屋を始めたということもなかっただろうと思うのです。

 もう二十年以上も前のことです。


 そういえば。ご夫妻ともにお年を召していたからか、どうもよく分かってないんじゃないかと思うことがいくつかありまして。

 ええ、今でも覚えています。

 る〇うに剣心の新刊かと思って何の気なしに開いた本が、BLモノの同人誌だったことを。

 頼むから、実際の既刊の隣にそんな劇物を置かないで欲しかった。



 ……というか、その本を発注したのって、旦那さんと奥さんのどっちだったんでしょう?

 謎です。

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