「ちょっと盗まれてくれない?」

kuro

盗賊王と吸血姫

 近未来きんみらい、人類はその文明のを宇宙全土へ広げた宇宙開拓時代。

 人類じんるいは科学技術の発達はったつと様々な環境への適応、その二つの要因により様々な種族への進化しんかを遂げていた。そんな世界で、俺ことアスラ=ケーニッヒは純粋な人間として生きている。

「まあ、俺自身真っ当な生き方をしているとは思っていないけどな♪」

 失敬、俺は云わば泥棒どろぼうという世間様に顔向けできない職種の人間だ。それも、世間では俺の事は盗賊王とうぞくおうなんて呼ばれている。

 盗賊王、なんてカッコいいばれ方はしているが要するに全宇宙を股に掛けた大犯罪者という事だ。実際、世間に顔向け出来る筈がない。まあ、もののついでに義賊ぎぞくの真似事もしているから世間からの評判はわりと良いんだけどな。

 そうしている現在、俺はある城に潜入せんにゅうしていた。場所はとある辺境惑星、かつて滅びたとされる吸血王ドラキュラの城。

 俺は、その城の一室に入る。その部屋の奥には巨大な棺桶かんおけがあった。機械仕掛けの棺桶だ。その棺桶の傍にあるパネルを操作、蓋が自動的に開いてゆく。パスコードは完璧に記憶きおくしている。事前に情報はぬすんでおいたのだ。

「へぇ、ずいぶんと綺麗きれいなお姫さんだねぇ」

 棺桶には、未だ綺麗な姿のお姫様がねむっていた。この姫君ひめぎみこそ、俺が狙う宝。吸血姫アイシアだ。

 棺桶が開くと、姫さんがゆっくりと目を開く。どうやら目をましたらしい。

「……えっと、此処は?貴方はどなたですか?」

「こんばんわ、姫様。俺はアスラ。大泥棒ぬすっとをしているよ」

「泥棒さん?というと、此処にある宝物を盗みにきたんですか?」

 小首を傾げる姫さんに、俺はにっこりと笑みを向ける。

「半分正解。俺が盗みたいお宝は君自身だよ」

「え?」

「君、ちょっと俺にぬすまれてくれない?」

 俺の言葉に、しばらく思考をめぐらせていた姫さん。だが、やがてその意味を悟るとぼふんっと顔を真っ赤にめた。

 何か、わたわたとあわて始めた。この娘とてもおもしろいね!

「えっと、あのあの……それはつまり、私がしいという事ですか?」

「うん、つまりそういう事だね」

「……あうぅ」

「どうかな、俺と一緒にない?」

 手を差し伸べる俺に、姫さんはこくりと頷き俺の手に……

 瞬間、どかんと城全体を揺らす爆音ばくおんと共に部屋の壁がき飛んだ。

「ん?」

「なっ!?」

 二人して振り返る。次の瞬間、俺の肩を一発の銃弾がち抜いた。その光景に姫さんが短い悲鳴ひめいを上げる。

 そのまま俺達は複数人の覆面部隊に囲まれた。全員が銃火器で武装ぶそうしている。

「ずいぶんな挨拶あいさつだね~、誰のし金かな?」

「お前が知る必要はない」

「まあ、予測は出来ているから言わなくても大丈夫だよ。じゃ、俺は此処ここでさらばとさせてもらうよ!」

「なっ!?う、て‼」

 覆面部隊が一斉に銃火器を撃つ瞬間、俺はリモコン式の転移装置を起動きどうした。その瞬間、俺と姫さんは一緒に転移。気付けば宇宙船の艦内かんないに居た。

「こ、此処は⁉」

「ようこそ、俺の拠点へ!俺は姫さんを歓迎かんげいしよう!」

 ……しばらく、姫さんは少しだけ錯乱さくらんしていたようだけど何とか平静になれたようで少し深呼吸しんこきゅうしていた。

「えっと、つまり貴方は宇宙をまたに掛ける大泥棒でこの宇宙船は貴方の拠点と?」

「うん、そういうこと~」

「えっと、それで私を盗むというのは。つまり私を泥棒として盗んでり払うつもりですか?」

 もしそうなら、自身の尊厳そんげんを守る為に抵抗ていこうする。そう、姫さんの目は語っている。

 けど、俺はそれを首を横に振って否定ひていする。

「それは違うよ、俺は盗んだものは二つにけていてね。後で売り払うものと自分の傍に置いておくもの。君は俺のずっと居て欲しいんだ」

「っ、っ~~~~~‼」

「どうかな、俺にぬすまれてみない?」

 俺は姫さんに手をし伸べた。姫さんは顔を真っ赤に染め、俯いた。しかし、やがて俺の手をそっとり。

「は、はい…………」

 俺の胸元に身体をあずけてきた。

 ・・・ ・・・ ・・・

 とある伯爵邸。その一室で、伯爵がれていた。

「くそっ、あの薄汚いコソ泥めが!わしが手にするはずだったお宝を!」

 伯爵は地団駄じだんだを踏み、心底から悔し気に憤る。しかし、そうしている暇など一切無かった。慌てた様子でとびらが開かれる。

「は、伯爵!玄関口に警察けいさつが押し寄せています!」

「何だと!どういう事だ!」

「伯爵が今まで行ってきた横領や窃盗せっとうの罪が何者かにより告発こくはつされたらしく……」

「ふ、ふざけるなああああああああああっ‼‼」

 そうして、人知れず伯爵は破滅はめつを迎えたのだった。

 ・・・ ・・・ ・・・

「全く、ふざけた野郎やろうだぜ……」

 伯爵邸に乗り込んだ警官隊けいかんたいの一人に、一人の私服警官が居た。その警官はずっと盗賊王アスラを追い続けていた人物じんぶつだ。

 時にアスラを追いつめ、時に共闘する彼の事を人は盗賊王のライバルなんて呼ぶ。

「次こそは、あの盗賊王をつかまえてやる……」

 そう言って、一人の警官は意思をかためるのだった。

 ・・・ ・・・ ・・・

 それから一年後、宇宙全土をさわがす盗賊王と盗賊姫は今日もたのしく宇宙を駆けるのだった。

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「ちょっと盗まれてくれない?」 kuro @kuro091196

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