第20話「魔力放出、豪炎」
「……それで、何すればいいの?」
「さっき話しましたよね」
「……あんたならもう一回説明するかなって」
聞いていないとは思っていたけど、聞き飛ばされていたとわかると気持ちが落ち込む。落ち込む気持ちを強引に無視して、桐の杖を手に取り、ラブグッドさんの前で構えた。
「僕の真似をしてください」
「わ、わかったわ」
覚束無い様子でラブグッドさんも杖を構える。
先端で弧を描くように杖を振り、「フォマジ!」と詠唱すると緑色の魔力が放出された。彼女は僕の魔力をまじまじと見ている。
「なんで緑なの」
「なんでって……バカにしてます?」
「ん?」
緑色の魔力は粗悪な魔力。緑色は魔力の中でも最低とされる質、僕はこの魔力で生まれたせいで、多くの苦労を背負ってきた。使えない魔術も沢山あったし、魔術の習得も遅くなった。ラブグッドさんが苦労してないとは言わない。それでも、僕の苦労はわからないし、馬鹿にするような言葉は許せない。
グッと睨みつけると、ラブグッドさんは本当に何も知らないというような表情を浮かべていた。カッとなって忘れてしまってたけど、この人は魔術について無知識だ。
きっと単純に自分の魔力と色が違うから聞いたのだろう。
「そんな睨まなくても」
「すみません……魔力には色があるんです。最低が緑、最高が赤」
「へ〜、私の魔力、最高ってこと?」
「……人外ですよ。人間はオレンジ色まで」
「ん……よくわかんないけど、凄いってことね」
「まぁ、平たく言えばそうですね」
ラブグッドさんはどことなく嬉しそうだ。
彼女は「えーっと」と言いながら、杖を構え直すと杖の先端で弧を描き、「フォマジ?」と自信なさげに呟いた。
その言葉と共にラブグッドさんの杖を持つ手から赤い光が溢れ出す。その光が杖の中に入り込むと共に、表面に無数の亀裂が走り、亀裂の中から熱気が漏れ出てきた。
「あつ、あち、なに!?」
「危険です! 投げてください!!」
「なげ、な、なげ? え?」
「早く! 投げて!」
「わかった!」
ラブグッドさんが杖を投げるとともに、杖が炎に包まれた。真っ赤な炎と成ったそれは、どんどんと膨らんでいき、豪炎に進化していく。
持っていた桐の杖を捨て、愛用の子供の身丈ほどある杖を手にした。杖を頭上に掲げ、魔力を送り込む。
「全てを納める清流よ。我を襲う焔を穿ち給え! ウォズデリマ!」
杖の頭から水の塊が現れる。そのまま、炎の方へと杖を振ると、水の塊が炎を覆った。
消火魔術、簡単な水属性魔法の応用技であり、を消しやすい特殊な水を生成するだけの魔術だ。流石のラブグッドさんの炎も消火魔術には勝てずすぐに鎮火された。
「……どうして、炎が」
ただ魔力を放出するだけの魔術、それで炎が生じることはない。特殊な杖なら有り得るが、今使っているのは桐の杖、それもベーシックな桐の杖だ。この準備期間に何度も点検したし、混じっているわけもない。
ふとラブグッドさんの顔を見ると、明らかに目がキョロキョロと泳いでいた。確実に何かを知っているという表情だ。訝しそうにジッと見つめていると、彼女は「な、なによ」とバツが悪そうに目を逸らした。
「何か知ってますよね」
「な、なにをよ……わかったから、そんな目、そ、知ってるわよ!」
彼女の顔を見つめ続けると、彼女も心地悪くなったのか、言い訳をやめて白状した。
「説明してください」
「……あ、なんて言ったら、そうだ」
「魔力が炎だってお母さんが……」
全く理解が出来ない音の羅列、僕は一旦、考えるのを辞めた。
「お昼にしましょう」
ぶりっ子魔術師に脅されてます!〜守られたがりのぶりっ子勇者魔術師が僕の命を握っているけど、パーティ内カーストを成り上がっていく話〜 @blueapplebyte
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ぶりっ子魔術師に脅されてます!〜守られたがりのぶりっ子勇者魔術師が僕の命を握っているけど、パーティ内カーストを成り上がっていく話〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます