第19話「ダンジョン未満」
「ふーん、なるほどね。いいわ」
ラブグッドさんと集合してから、今日の訓練内容を簡潔に伝えた。理解したのか理解していないのか、と言うようなボケっとした顔をしているが、伝わってなくても了承してくれるなら良い。
それにしても、ラブグッドさんはこの前のような気合いの入った服ではなく、一度見ただけではわからないようなダラケた見た目をしている。動きやすいような服装をしてくれたのは良いのだが、化粧のけの字もなく、髪も下ろしているのを見るに、僕に対しては何を見せてもいいと思っているのだろう。
良いことなのか悪いことなのか。
「それで、ここでやるの?」
「自分で言うなって話だけど事故るよ?」
「わかってます。他に訓練の場所を用意してます」
「ちょっと歩きますよ」
公園から南の方に歩いていくと森がある。その森の舗装された道を歩いていくと、脇に大きな落石がある。その落石の裏を見ると道がある。
「……なにここ、狭い」
「我慢してください」
素人の僕が、僕だけが通れるように切り開いた道。道とは言うが、ただの木の隙間、人によっては道とは言えないだろう。
その道の奥に僕の研究所がある。岩壁に不自然に掘られた洞窟とその横にある今にも潰れそうな小屋。その周りにベンチや机、積み上げられた
「何ここ……」
「僕の研究所です」
「研究所? これが?」
ラブグッドさんはキョロキョロと顔を動かしながら、周りを歩いていく。洞窟の前で立ち止まると、ゆっくりと警戒するように洞窟の中を見た。
「あんた、これ、ダンジョンじゃないの」
「……あ、はい」
「あ、はいって、ダンジョンは一人で所有しちゃいけないって」
「でも、それダンジョン認定されてないので、大丈夫じゃないですかね」
ダンジョンの個人所有は禁じられている。そんなことは知ってる。
だが、過去に作りかけで放置されたダンジョンを個人が所有出来た事例があった。だからこそ、ダンジョンを見つけた時は報告せずに、ダンジョン以下になるようにシトリ先生と一緒に攻略し、僕と彼の研究所にした。
「あんた……すごいヤツ?」
「僕は凄くないですよ。シトリ……僕の先生がすごいんです」
「へ〜、で、どうすんの?」
あまり気にならないらしい。少々寂しい気持ちもあるが、ここで止まられると困るから、興味を示されないのは助かる。出来る限り早く実践訓練に移りたい。
「洞窟に入ってください」
「……あんたと? 嫌なんだけど」
「……? あぁ、大丈夫です。格上を襲うほど愚者ではありません」
「僕の気が可笑しくなって襲うことがあったら、殺してください」
「……なんかバカにしてない?」
一生懸命、笑顔を作って首を横に振った。
ラブグッドさんは納得してないというような顔で渋々と言ったようにゆっくりと洞窟の中に入っていった。洞窟の中は相も変わらず珍妙な装飾が施されている。恐らくは異国の人間が作ったダンジョンで、足のないドラゴンや真珠を多く用いられている。
「ここですね。ここは魔術によって壁が傷つかないように出来ています」
「私が魔力を使いすぎても大丈夫なわけね」
「……で、何すればいいの?」
僕はカバンから桐の杖を取り出し、彼女に渡した。杖と言うには短いそれを物珍しそうに見つめている。そう言えばラブグッドさんは立派な杖を持っていた。桐の杖とは無縁の人生を送ってきたのかもしれない。
「……それで、何すればいいの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます