葉のこれまで。

俺の町には不思議な花屋がある。

昔からあるお店で、

俺のじいちゃんが子供の時には既にあり、

その時から同じ顔の人間が店主らしい。


ふざけたような怪談話だから、

他のやつは、

「親子なら顔も似るだろ。」とか

「年寄りの見間違いじゃね?」

とか言ってまともに取り合わない。


でも、

じいちゃんはまだぼける歳じゃないし、

俺は高校生だが、

小学校からこの歳までの間店主は同じやつだった。


あの店主は今の俺と同じくらいの見た目なのに。

歳をとった様子も、

成長した様子も全くなかった。


だから、この話は本当であいつは化け物なんだろうと、

目的は分からないが、きっと人間じゃないんだろうと思った。


俺は、あいつが何なのか興味がわいた。

あいつが何者なのか。

あいつは何をしたいのか。

あいつはいつからここにいるのか。

全部調べてやろうと思った。


常連客になって仲良くなれば少しは口を滑らせるだろうと思い、毎日店に通った。

意外なことにあいつは、すぐに自分の事を話してくれた。

自分が異常なことに気づいていないのか、

その異常さを隠す気がないのか、

俺を見て遊んでいるのか、、、

俺は、簡単にあいつの情報を手に入れた。


あいつの名前は華。

あいつが「貴方様」と呼ぶ誰かに、名付けられたらしい。

貴方様が誰なのかは知らないが、

きっとそいつも人間じゃないのだろう。

何しろ、いつ名付けられたのか本人が覚えてないくらいの

昔の出来事らしいから。

そして、あいつの目的は「縁を繋ぐこと。」

これに関してはもう花と人の縁を繋ぐとしか説明してくれなかった。

貴方様に頼まれたことらしいが、

本当に花を渡したいだけなのか何かしら細工でもしているのか。

よく分からなかった。

でも、それを語る時のあいつは凄く楽しそうだった。

あいつは少なくとも600年以上前からここで花屋をしているらしい。その間どんな花の縁を繋いできたか熱弁してくれた。

何か変なことをしていないか探りたくて真面目に聞いたら、

誰に何を売ったのか。誰がどんな事に花を使ったのか。

ずっと喋り続けていた。

ずっと楽しそうに、誇らしげに話し続けていのに、

最後に、

「でも、貴方様はきっとまだ足りないと申されるでしょう。

私では到底力不足だと、そう思われるでしょう。」

そう悲しそうに言った。

労ってもくれない貴方様の為になんで頑張れるのか。

思わず聞いた。

「貴方様は私の唯一です。貴方様は私の母で、父で、兄で、姉で、家族で、私を守ってくれる1番の庇護者です。」

間髪入れず、強い口調で答えが返ってきた。

俺は気づいた。

こいつは貴方様だけが自分の味方だと思っている。

貴方様が好き過ぎて、

恋とも愛とも呼べない重い感情を抱いている。

一方通行に。


数日後、店の奥の神棚に

「本日も見守っていて下さい。貴方様。」

そう語り掛けるこいつを見た。

俺に気づくと恥ずかしそうに笑い、

「、、私が勝手に祈るくらいならしてもいいですよね?」

泣きそうな声で言った。

俺は、笑いながら震えた声で喋るこいつを、

もう化け物のように見れなかった。

泣きながら拠り所を必死に求めているこいつは

どうしようもなく人間なんだと。

そう思った。


それから俺の感情は、

こいつに影響されるように、

歪んだ方へずれていった。


こいつは人間じゃないから当たり前だと思っていたが、

異常なほどの美しさを持っているのだ。

真っ白な髪を切り揃え、

形の整った眉に、

吸い込まれそうになる青の瞳。

透けそうなくらい白い肌と、

とても小柄で華奢な体つき。

いつも表情が崩れないせいで作り物のように感じていたが、

人間のように笑ったり泣いたりするおかげで、

人間のように感じ、

人間のように傷を持っているから、

人間のように身近に思ってしまった。


そうなるともう止められない。

俺はこいつが欲しくなった。

こいつが貴方様へ呼びかけるように、

俺にも呼びかけて欲しくなった。

つまるところ、

愛とも恋とも呼べないくらい重い感情を、

俺も持ってしまった。


それから2年が経ち、

俺は高校を卒業する年になった。

高校生の間毎日花屋に通い詰めたおかげで、

あいつと俺は気安く話せるようになった。

常連に俺の気持ちがばれたおかげで、

店に2人きりになることもあった。


社会人になれば、

流石に毎日来ることはできないだろうと思っていたが、

常連に相談したところ、

「ここで働けるか聞いてみたらどう?最近忙しくて大変だって店主ちゃんこぼしてたわよ?」

そう言われた。

あいつは基本受け身で、強くお願いされると断れない。

だから、俺はここで働くことにした。

アルバイトから。

という形ではあるが、それでもここの従業員になれた。


ここに居たい気持ちがあって、

ここにいる手段もあって、

ここには協力者もいて、

こうなればもうやることは決まっている。

あいつを惚れさせる。

貴方様をあいつの心から追い出す。


こうして、

不思議な花屋での仕事が始まり、

俺の恋路も本格的なものになった。

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華の花屋 けいな @keina_aya

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