第2話 1日目

あぁ、開店の時間がやって参りました。

「葉様。準備は出来ましたでしょうか?」

「はい!ばっちりです!」

元気な返事をしてくださったこの方は、

例の奇特な少年です。

名を「葉」様といい、

彼曰く、

「華と葉っぱが揃うと特別感あるっすね!」

だそうです。


さて、

それではお待ち下さっているお客様もいらっしゃるので、

開店といたしましょうか。


「葉様。店を開けて頂けますか?」

「はい!任せてください!」


開店と同時に、

1名のお客様が店内へいらっしゃいました。

この方は、

最近お店に通うようになられた方で、

いつも赤い薔薇を眺めておられます。


この店に若い男性がいらっしゃることは大変珍しいので、

是非、希望を叶えて差し上げたいと思っております。


「あら、葉様、、?」

葉様が男性へ話しかけ始めましたが、、、

どうかされたのでしょうか。

男性の顔色が赤くなってまいりました。


でも、とても楽しそうにお話されていますね。

後で、なんのお話か聞いてみましょうか。


あ、葉様が戻って来られました。

「何の話しをされていたのでしょうか?」

とても気になります。

お客様の好みを知ることで、

よりお客様に合ったお花をお勧め出来ますから。

決して、興味本位ではございません。

「えっと、その、、。恋バナです!」

葉様まで顔を赤くして、

叫ぶように教えてくださいましたが、、、


あぁ、お客様も驚いてこちらを見ておられます。

「葉様。少し声を抑えて下さいな。」

「ごめんなさい。」

「聞くタイミングも悪かったですね。失礼しました。」

「いや、ごめんなさいっす。急に叫んで。」

「いえ、僕が何も考えずに、、」

「いや、俺が、、」

平行線ですね。

1度話を切り上げて、お客様へ集中せねば。

「葉様。今はお客様がいらっしゃるので後に致しましょうか。」

「うっす。」


さて、僕もお客様へ話しかけてみましょうか。

ひとりで花を眺めるのが好きな方かと思っておりましたが、

先程の様子を見る限り、そうでも無いようです。


「こんにちは。お客様。」

最初の印象は良くしたいですから、

極力笑顔で声をかけます。

「あぁ、えっと、、その、こんにちは。」

…少し緊張されているのでしょうか。

「楽にしてくださいな。」

「は、はい。すみません。」

謝られてしまいました。

威圧感を放ってしまったのでしょうか。

お顔もまた赤くなっておられますし、

体調が優れないのでしょうか。


「こー君!こちら店長の華さんです!!」

急に葉様が割り込んできました。

こー君とは、この方のお名前でしょうか、、。

「は、はい!知ってます!」

お客様、、つられて声が大きくなってますね、、

そういえばこの方にまだ名乗っておりませんでした。

常連さんとお話することの方が多いので、失念しておりました。

「こー様で宜しいのでしょうか?はじめまして。華と申します。この店の店長を務めさせて頂いております。」

「は、、はじめ、まして。浩介と、、申し、ます。」

「浩介様でしたか。失礼致しました。」

「いえ、だ、いじょう、ぶで、す。その、様もなくて、いいで、すよ、、?」

「こー君めっちゃどもってるけど大丈夫?緊張しすぎじゃなーい?」

葉様はリラックスし過ぎでは、、、?

「だって、、話すの、初めてだし、、葉君みたいにはいかないよお」

「だいじょーぶだいじょーぶ。華さんめっちゃ優しい人よ?」

本人を目の前にして言われるとすこし照れますね。

「それと緊張は別物なんだって!いつもこっそり見てるだけだからさぁ!」

、、、!?

何か聞き捨てならない言葉が聞こえたのですが。

いつも見られていた、、とは、、?

「あ、本人の前で言っちゃった。」

「あ、、、、」

僕のこと世界から消してお話してらっしゃいましたね?

、、、このお客様は自分の世界に入るのが早い方であると覚えておきましょう。

「見られていた、、とは、僕の体になにか不思議な、不自然なところがあったのでしょうか?不快な気持ちにさせていたとしたら、大変申し訳ありません。」

「華さーんすとーっぷ。流れるように謝罪してるけど違いますよー?」

あら、、

ではなぜ、、?

「可愛く首傾げないでくださーい。」

「あの、、ほんと、ごめんなさ、いでした、、!」

あ、お客様が店から出ていってしまわれました。

残念です。

まだお話したかったのですが、、。


「さて、葉様。説明して下さいますか?」

まずはこれが先ですね。

何がしたかったのかよく分からなかったので、

理解していると思われる葉様に説明してもらわねば

次来てくださった時にまた失礼な対応をしかねません。

「店長。顔近いです。」

これは失礼しました。

「えっとですね、こー君と話してた内容が恋バナってのは言いましたよね?」

えぇ。

「こー君は好きな人がいて、その好きな人に花を送りたいらしいんすよ。」

よくお聞きする希望ですね。

「でも、その好きな人が何の話を好きか分からないし、話しかけるのも緊張してできないそうでして。」

あぁ、

あの様子でしたら、確かに大変そうです。

「で、毎日花を見るだけで諦めてしまうそうです。」

だから、赤い薔薇を毎日眺めていらっしゃるのですね。

「浩介様と葉様はお知り合いだったのでしょうか?」

「いや、初対面っす。」

…驚きです。

初対面であそこまで砕けた仲になれるとは。

「では、あのお客様は葉様にお任せしてもよろしいでしょうか?」

「え!!!いいんですか!!」

声が大きくなりましたね。

「あのお客様は葉様ととても話しやすい様でしたし、僕は恋愛方面にはすこし疎いですから。」

それに、

アルバイトとはいえ、

お客様と接する仕事を少しでも覚えていただきたいですし。

あの様子でしたら、

サポートも要らないでしょう。

むしろ邪魔ですかね。

「いいんですか!?」

「えぇ。」

「俺の初仕事だぁ!!」

とても嬉しそうですね。

この様子でしたら、

もっと色々任せても良かったかもしれません。

それはそれとして、

「葉様。初仕事とおっしゃいましたが、これまでお任せした仕事も立派なお仕事ですよ。他の会社はともかく、ここでは、作業の大切さに優劣はございません。」

流石にここは譲れません。

「はい。すみませんでした。」

わかってくだされば良いのです。


さて、

お客様はいらっしゃらないようですし

「次のお客様がいらっしゃるまで、すこし花の勉強を致しましょうか。」

「はい!」


…………

今日は赤い薔薇のお客様と、

常連のお客様が数名でした。


常連のお客様には良いお花との縁を結べたと思っておりますが、薔薇のお客様は少し難しいですね。


貴方様。

恋心とは難しいですね。

人付き合いも。

とてもとても難しくて、やりがいがあります。


さて、それでは今日は閉店と致しましょう。

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