【KAC20231】未来夢書房ー未来の本好きに捧ぐー

めぐすり@『ひきブイ』12/15発売

第1話

「うわぁ。どこまであるんだろう」


 見上げ過ぎて首がちょっと痛い。

 高層ビルの如くそびえたつ巨大な本棚が壁一面に並んでいる。横幅もどれだけあるかわからない。自他ともに認めるインドア派の私には、端にたどり着く前に力尽きるだろう。

 それに同じような本棚は私の後ろにいくつも並んでいる。

 どれだけの本があるのかわからない。

 本棚の上にある本の取り方もわからない。

 この中からお目当ての本を見つけることなんて不可能だ。


 これが現実ならば。

 ここは仮想現実。

 未来夢書房と呼ばれる最近リリースして話題になったVR端末サービスだ。

 ちなみに利用は無料である。


 広大な本棚の世界を歩き回る。

 ジャンル別。レーベル別な。表紙が見えるように置かれた本。今話題作と平積みにされた本。

 まるで本物の本屋さんのようにこだわった陳列がされている。

 それだけでわくわくしてしまう。

 この雰囲気が好きでこのまま歩き回りたい気持ちになる。

 私と同じ気持ちなのか実際に歩き回って、気まぐれに本を手にとっている人も見かけた。本屋内が広大過ぎて滅多にすれ違わないけど。

 もちろんこのまま散歩を楽しむのもいいが、今日は本を買うつもりだった。

 誰もいない本棚を見つけて空中に浮かぶディスプレイを操作する。


「えーとジャンル検索は恋愛でライトノベル、と」


 途端に本棚が私専用になる。

 さっきまで大人の趣味コーナーで『釣り三昧特集』が組まれていた本棚の内容が、きらびやかな表紙の女性向けレーベルのライトノベルに埋め尽くされた。ライトノベルだけではなく少女漫画まで並んでいる。


「さすがにこの絞り方だときついか」


『あなたの電子書籍の読書履歴を参照してよろしいでしょうか?』


「お願い! 最近読んで面白かった作者さんの他の作品を探してみたくて」


『了解しました』


 また本棚の内容が切り替わる。

 最近読んだ本の作者の作品群が作者別、年代別に表紙が見えるように置かれていく。


「あっ! この作者さんだ。こんなに作品出していたんだ。どれがいいだろう」


『どのような内容をお望みでしょうか?』


「なにかを始めてみたくなるようなワクワクする内容かな」


『それではこちらの作品はいかがでしょう?』


「うん。じゃあそれで!」


『無料のサンプルをお読みしますか? それともご購入の手続きに入りますか?』


「巻数もあるみたいだし、この作者の話なら……購入でお願いします」


『かしこまりました。電子書籍のご購入でよろしいですね? 紙の本をご購入の場合は新品がプラス百円。プレミアム会員ならば送料無料です』


「紙の本も買えるんだ。でもかさばるし置き場所が」


『電子書籍版をご購入のお客様でしたら、いつでもプラス百円と送料で紙の本をお届けします。廃版の場合でもご要望の声が集まれば、再版される場合がございます』


「なるほど。じゃあ今回は電子書籍版で。気に入ったら紙の本も買うかも」


『ご要望承りました。精算に入ります』


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『データ転送が完了しました。お手持ちのデバイスでいつでもお読みいただけます』


「やっぱりデータだと早いね」


『この空間の読書サロンもございますがいかがしますか。お一人向けもございますし、購入した本を持ち寄り他者と交流できるルームもございます。もちろんルームを開設することも可能です』


「そんなものまで……今はアバターもいじってないし、一人で読みたい気分だから読書サロンはいいや。自分の部屋でゴロゴロしながら読むよ。色々とありがとうね」


『どう致しまして。それでは快適な読書ライフをお楽しみください』


「うん。またね」


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