【KAC20231】未来夢書房ー未来の本好きに捧ぐー
めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定
第1話
「うわぁ。どこまであるんだろう」
見上げ過ぎて首がちょっと痛い。
高層ビルの如くそびえたつ巨大な本棚が壁一面に並んでいる。横幅もどれだけあるかわからない。自他ともに認めるインドア派の私には、端にたどり着く前に力尽きるだろう。
それに同じような本棚は私の後ろにいくつも並んでいる。
どれだけの本があるのかわからない。
本棚の上にある本の取り方もわからない。
この中からお目当ての本を見つけることなんて不可能だ。
これが現実ならば。
ここは仮想現実。
未来夢書房と呼ばれる最近リリースして話題になったVR端末サービスだ。
ちなみに利用は無料である。
広大な本棚の世界を歩き回る。
ジャンル別。レーベル別な。表紙が見えるように置かれた本。今話題作と平積みにされた本。
まるで本物の本屋さんのようにこだわった陳列がされている。
それだけでわくわくしてしまう。
この雰囲気が好きでこのまま歩き回りたい気持ちになる。
私と同じ気持ちなのか実際に歩き回って、気まぐれに本を手にとっている人も見かけた。本屋内が広大過ぎて滅多にすれ違わないけど。
もちろんこのまま散歩を楽しむのもいいが、今日は本を買うつもりだった。
誰もいない本棚を見つけて空中に浮かぶディスプレイを操作する。
「えーとジャンル検索は恋愛でライトノベル、と」
途端に本棚が私専用になる。
さっきまで大人の趣味コーナーで『釣り三昧特集』が組まれていた本棚の内容が、きらびやかな表紙の女性向けレーベルのライトノベルに埋め尽くされた。ライトノベルだけではなく少女漫画まで並んでいる。
「さすがにこの絞り方だときついか」
『あなたの電子書籍の読書履歴を参照してよろしいでしょうか?』
「お願い! 最近読んで面白かった作者さんの他の作品を探してみたくて」
『了解しました』
また本棚の内容が切り替わる。
最近読んだ本の作者の作品群が作者別、年代別に表紙が見えるように置かれていく。
「あっ! この作者さんだ。こんなに作品出していたんだ。どれがいいだろう」
『どのような内容をお望みでしょうか?』
「なにかを始めてみたくなるようなワクワクする内容かな」
『それではこちらの作品はいかがでしょう?』
「うん。じゃあそれで!」
『無料のサンプルをお読みしますか? それともご購入の手続きに入りますか?』
「巻数もあるみたいだし、この作者の話なら……購入でお願いします」
『かしこまりました。電子書籍のご購入でよろしいですね? 紙の本をご購入の場合は新品がプラス百円。プレミアム会員ならば送料無料です』
「紙の本も買えるんだ。でもかさばるし置き場所が」
『電子書籍版をご購入のお客様でしたら、いつでもプラス百円と送料で紙の本をお届けします。廃版の場合でもご要望の声が集まれば、再版される場合がございます』
「なるほど。じゃあ今回は電子書籍版で。気に入ったら紙の本も買うかも」
『ご要望承りました。精算に入ります』
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『データ転送が完了しました。お手持ちのデバイスでいつでもお読みいただけます』
「やっぱりデータだと早いね」
『この空間の読書サロンもございますがいかがしますか。お一人向けもございますし、購入した本を持ち寄り他者と交流できるルームもございます。もちろんルームを開設することも可能です』
「そんなものまで……今はアバターもいじってないし、一人で読みたい気分だから読書サロンはいいや。自分の部屋でゴロゴロしながら読むよ。色々とありがとうね」
『どう致しまして。それでは快適な読書ライフをお楽しみください』
「うん。またね」
【KAC20231】未来夢書房ー未来の本好きに捧ぐー めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定 @megusuri
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