先輩の指のサイズを測るには

新巻へもん

ミッション・インポッシブル

 僕は三月十四日を前にして悩んでいる。

 言わずと知れたホワイトデー。

 先月には家族以外から初めてチョコレートを貰っていた。

 しかも、密かに惚れていた麗瀬先輩からだ。

 親友の秀斗のお姉さんで、二学年先輩のとても素敵な人。

 そして、カツアゲをしようとしてきた不良五人をあっという間に地面に沈めてしまう技の持ち主でもある。

 颯爽としてカッコよくて、憧れの人だった。

 秀斗と三人で出かけたりはしていたけれど、とてもとても恐れ多くて僕の気持ちを打ち明けるなんて出来はしない。

 それなのになんとヴァレンタインデーに手作りのチョコを貰ってしまったのだった。

 物凄い長広舌で弟のついででちょちょっと作っただけと言っていたけれど、秀斗がその実態をバラしている。

 夜遅くまでかかってお父さんにまで手伝ってもらって作った力作なんだそうな。

 もしかすると99%はお父さんが作ったのかもしれない。

 でも、そんなことは些細なことだ。

 天にも昇るほど嬉しかった。

 翌日、学校でなんとか機会を見つけて、美味しかったという感想を伝えると共に正式にお付き合いを申し込んだ。

「うん。まあ、あれだ。勘違いさせちゃったようだな。昨日も言ったように友チョコというかそんなつもりだったのだが。しかし、勘違いさせた責任はアタシが取らなくてはいけないな。ここで断っては女がすたるというものだ。OK。OK。OK牧場」

 そんな感じで承諾の返事ももらえる。

 ただ、その後は手一つ握るわけでもなく、今までと変わらない関係が続いていた。

 秀斗と三人でつるんでマックでだべったり、高い木に登って降りられなくなった子猫の保護を手伝わさせられたり、痴漢を捕まえる補助をさせられたりしている。

 子猫を捕まえたまま枝から落ちたところをお姫様抱っこされるのは悪くなかった。

 本当なら立場が逆なのだろうけれども、どう見ても麗瀬先輩の方がヒーローっぽい。

 卑劣な痴漢をぎゅうぎゅう締め上げるのを宥めるのも大変だったがいい思い出だ。

 でも、お付き合いしているのだったら、手をつないで一緒に歩くことや、こう、なんというかキスぐらいはしてみたいというのは僕が望み過ぎなのだろうか。

 来年度からは麗瀬先輩は大学生だ。

 遠くに行ってしまうわけではないけれど、僕の目の届かない環境になる。

 そうなる前に関係を一歩進めたい。

 そう思いながらも一月が経とうとしていた。

 ホワイトデーぐらいはばっちりきめたい。

 どれほどの効果があるかは分からないけれど、対外的に彼氏がいるんだぞ、ということを主張する指輪を贈ろうと考えていた。

 左手の薬指のサイズが必要になるのだが、それを知ろうとするのは困難を極める。

「先輩腕相撲しましょう」

 ……腕相撲は瞬殺された。

 手を握るという目的は達成できたので良しとしよう。

「ちょっと勉強してみたんです。手相を見させてください」

「興味ないなあ。悪いけどアタシはちょっとそういうのは信じられないんだ。悪いねえ」

 あえなく撃沈。

 まあ、もし手相を見せてもらっても目測なので誤差は出てしまうのだけれども。

 最後の手段として、美術の課題の石膏型取りの練習をさせて欲しいとお願いした。

 怪訝そうな顔をされる。

 でも、快諾してくれた。

 澄ました顔をしていたけれど、勘のいい麗瀬先輩だからさすがに途中で気が付いたと思う。

 それでも無事に型取りが終わって、僕は麗瀬先輩の左手の石膏像を手に入れた。

 石膏の指に紙を巻いてサイズを図る。11号だった。

 今まで足を踏み入れたことのない煌びやかなジュエリーショップでシルバーのリングを買う。

 少しだけうねりの入ったシンプルなデザインのものにした。

 秀斗いわくゴテゴテしたのは好きじゃないらしい。僕もそんな印象だ。

 14日を迎える。

 放課後、家にすっ飛んで帰った僕は紙袋を手にして、麗瀬先輩の家を訪れた。

 秀斗の家でもあるので訪問は慣れているはずなのにどきどきする。

 ドアを開けて出てきた麗瀬先輩の目の前に僕は紙袋を差し出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

先輩の指のサイズを測るには 新巻へもん @shakesama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ