第17節(第1道:最終節):果てしなき旅へ……

 

 一方、ご領主様は特に気を悪くした様子もなく淡々と話を続ける。


「子どもたちにとって、これは幸せなことなのだ。なぜならここは罪を償うための世界。そして子どもたちはおぬしの助けを借りて罪を償い終えた。ゆえに子どもたちはこの地から旅立ち、新たな世界へ『転生』をする」


「もう少し分かりやすく説明してもらえませんか? 何を言ってるのか理解不能です。それにこんなに良い子たちが何の罪を犯したっていうんですか?」


「幼きうちに亡くなり、親を深く悲しませた罪だ」


「え……?」


 ご領主様から放たれた重苦しい声――。


 それを聞いた瞬間、再び私の心臓が大きく跳ねる。でも今度は一度の脈動では収まらず、むしろ鼓動がどんどん早くなっていく。呼吸も乱れ、動揺で思わず薄笑いが浮かぶ。


「な、亡くなったって、コナたちはこうして生きているじゃないですか。ねぇ、みんな?」


 私は子どもたちの方へ顔を向けて問いかけた。


 するとたまたま私と目が合ったコナは、寂しげな笑みを浮かべながら首をゆっくり横に振る。『生きている』という言葉に対しての否定。それが意味していることを考えれば、ここがどういう世界なのかおのずと答えは導き出される。



 ――そっか、そういうことか。



 灼熱の不毛の大地、飢えと渇き、モンスター、そして納めなければならない税。どれも子どもたちへの罰として存在していたものだったんだ……。


 だからモンスターにトドメを刺そうとした時、世界はそれを阻止しようと私の体に干渉したのかも。だから私が住みやすく整えた環境も一時的なもので、放っておいたら元の状態に戻っちゃう可能性も高いだろうな。


 私はようやく全てを納得したつもりなんだけど、やっぱり心の中はモヤモヤしたままでいる。


「私の仕事って、あの世で苦しむ子どもたちを救うってことだったんですね?」


「あの世とはどの世のことを指しているのかは知らんが、おぬしの役割についてはその解釈でよい。輪廻の中において、苦しむ子どもたちを救いながら果てしなき旅を続けるのがおぬしの役割だ」


「…………」


「私たちとお姉ちゃんは離れて暮らすことになっちゃうけど寂しくないよっ! お姉ちゃんはここにいるから。ずっとずっと」


 呆然としている私に対し、ラナは自分の胸を叩きながら私に向かって満面の笑みを浮かべた。ほかのみんなも笑顔になって、別れの寂しさを感じさせる子はいない。


 そっか、みんな私より強いな……。


 私なんか寂しくて泣いちゃいそうなのに。でもみんなが笑顔なら私も笑う。泣き顔なんか見せたら心配させちゃうもん。だって私はみんなのお姉ちゃんなんだから!


 ……でもおかしいな。笑っているはずなのに頬が冷たいよ。


 私は子どもたちに背を向け、服の袖でがむしゃらに目の周りを拭いた。そして大きく深呼吸。そうやって心をわずかに落ち着かせ、振り返って今度こそ最高の笑顔をみんなに向ける。


「久下軽羽よ。おぬしには私が次の道を指し示してやろう。そこにも苦しむ子どもがたくさんいる。助けてやってくれ」


「またたくさんの子どもたちと一緒にいられるんですね? それなら大歓迎ですよ!」


「おぬし、この旅がツライとは思わぬのか?」


「なぜです? 子どもたちと過ごせるのなら、ツライどころか幸せですよ。それに苦しんでいる子がいるなら助けてあげたいって思うのは当然じゃないですかっ!」


 たくさんの子どもたちと過ごせる世界。それは私にとっての理想郷ユートピア。そして苦しみから解放された世界は子どもたちにとっての理想郷でもある。


「ふっ、そうか。さすが『あの御方』が見込んだだけのことはある」


「あの御方? なんですか、そのラスボスみたいな存在は?」


「全ての理に通ずる御方――とだけ言っておこう。では、久下軽羽。おぬしの往く道はまだまだ遠く長いが、くじけずにな」


 ご領主様は間髪を入れずに指を鳴らした。


 すると私の周りの景色が揺らぎ、船酔いをした時のように気持ち悪くなる。全身が上下に引っ張られて捻られてるみたいな。


 なんか意識も遠のいていく……。





「あれ? ここはどこ?」


 気が付くと私は山の上に立っていた。


 目の前には尾根が連なり、その向こうは青い空。空気は薄く、肌寒く感じる。そして眼下に雲が漂っていることから、ここは標高の高い場所だと分かる。


「椎谷さんといいご領主様といい、相変わらず詳しい説明なしで突然なんだから。まぁ、いいけど。――で、今度はあの村かな?」


 尾根沿いに続く道の先には、数件の家が建っている集落が見えている。きっとそこにも何かに苦しむ子どもたちがいるのだろう。


 どんな子たちと出会えるのか楽しみっ。今回も全力で子どもたちを救ってみせるんだからッ!



(第1道:終わり/軽羽の旅はこれからもつづく……)







 幼くして亡くなった世界中の子どもたちへこのお話を捧げます。


 軽羽ちゃんを本当のお姉ちゃんだと思って前を向いてください。軽羽ちゃんは常にあなたたちのそばにいます。


 そして苦しみや悲しみを乗り越え、新たな世界へ旅立つことを望みます。



 みすたぁ・ゆー

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

久下軽羽のお子様救済記 みすたぁ・ゆー @mister_u

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ