彼の視点

先日、俺はある女の子の話を遮った。

その子のことは好きだった。

多分、その感情は所謂『恋』というものだけど。でも、告白する気はさらさらなかった。

俺は化け物だ。比喩じゃない。人から見ると異形の類である。化けた姿は人間らしく、それなりの見た目でも、いかんせん声がマズイ。どう考えたって人間のそれとは違う、まるで地獄の底から響いてくるようなおぞましい声。よほどの強者でない限り、聞いた瞬間に失神する。最早、同族連中にすら最終兵器扱いされる始末だ。マジふざけんなと思う。俺だって、好きでこんな声に生まれた訳じゃないのに。

俺がこの場所にいられるのは、人間の住む世界では夕暮れ時の、限られた時間だけ。

電車に乗るのが好きだった。

ガタンゴトンと揺れる振動は心地よく、こちらに来たときの楽しみだった。

そこであの子に出会った。

落とした安物のキーホルダーは、こちらで人間たちに溶け込むための道具として手に入れた服やバッグのオマケでしかなかったけれど。それを拾われたことを機に始まった彼女との交流は楽しくて、いつの間にかお気に入りになってしまった。我ながら単純すぎて笑える。

以前、俺の読んでいた漫画が自分の趣味に似ていると嬉しそうに言われたが、それは駅前のゴミ捨て場に積まれていたものを適当に拾ってきていただけだったので、本当は何処の誰の趣味なのかも知らない。でも、確かに読んでみるとその内容は面白かったから、それを一緒に共有できる仲間が出来たことはとても嬉しかった。

ただ、彼女に漫画を触られそうになった時は全力で阻止した。だってほら、外に放置されていたゴミを触らせる訳にはいかない。

それからしばらくして、自分が彼女を大切に思っていると気づいた時、俺は固く決意した。近々、この世界を離れようと。思い出が多ければ多いほど、別れはつらくなる。

どうせ、長く一緒にはいられないのだ。

夕焼けのせいか、真っ赤な顔であの子が何かを言いかけた時、潮時だと思った。彼女にその言葉の続きを言わせてしまったら駄目だ。そんな気がした。お互い、もう会わないほうがいい。だから、精一杯その意志を示した。

両腕で大きくバツ印を作って。

ずっと一緒にいられない。

ごめんなさい、って。

でも、自惚れが許されるなら。

きっと、今まであまり誰かから好かれた経験がないせいなんだろうな。

『彼女が自分を好いていたかもしれない』って思えただけで、結構幸せ。

すぐにではないけれど、またいつか会えたら、彼女とたくさん話がしたい。

そう考えながら、夕方の道を駆け抜けた。

将来出来るかもしれないあの子の大切な人と、あの子の未来に幸あれ。

俺は今、心の底からそう思っている。

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