ばってんマーク!

花染 メイ

彼女の視点

先日、とある男の子に振られた。

というか、告白する前に駄目だと悟った。

その子とは帰るタイミングが同じらしく、夕方に学校帰りの電車でよく会う。彼が落としたキーホルダーを、私が拾った翌日に、偶然同じ電車に乗り合わせたのがすべての始まり。

以前から雰囲気のいい魅力的な子だと思っていたし、偶に読んでいる漫画が私の好みと似ていたから、お礼を言われた時はここぞとばかりに話を広げた。案外、会話が弾んだ。

笑った時にキュッと吊り上がる、少し悪者っぽい目が特徴的で、その色は深い海の底みたいな黒っぽい青緑。

彼は声が出せないらしく、会話はいつも筆談だった。

単純なこと。

何度か話をするうちに、いつの間にか、私のほうがコロッと彼に落ちてしまった。

あーあ、やっちゃったな。

夕暮れ時、正面の席に座っていたあの子。

誰もいない電車の中で。

『好きだ』と言いかけて止めたのは、彼が不意に胸の前で腕を交差させ、ばってんマークを作ったから。少し困った表情で、寂しげに首を横に振ったから。

きっと、バレバレだったのだ。

私の好意も恋情も。

意気地なしの私はここで黙りこみ、そして笑い返した。

なんでもないっていう風に。

その日の彼は普段と違う駅で降り、いつもより早く私と別れた。

以来、一度も彼とは会っていない。

帰る時間をずらしたのかもしれなかった。

多分もう、二度と会わない。

そんな気がして仕方ない。

私は今も、相変わらず同じ電車を使い続けている。

次にいつ会えるかもわからない、連絡先も住所も知らないあの子を待つためじゃない。

ただ単純に、この電車が一番帰りやすいだけ。

それでも、もし、叶うなら。

本当はもう一度会いたいけど。

あの日のことは忘れていいよ。

ごめんね。

ただ、もう少しだけ。

一緒に喋って帰りたかったな。



Q.彼は本当に「話せなかった」のでしょうか?それとも……

答えは次のページに。

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