第14話 馴れ初め紹介 9
自分の出番は完全に終わったので、私はスケッチブックを手に競技してる生徒のクロッキーをしていた。
「
「アスカのそういう常に努力する姿勢、尊敬に値するわ」
「ただの暇潰しだよ」
『次の競技は2年生による借り物競争です』
借り物競争か、ウチのクラスは誰が出るんだっけ。
スタート地点を見ると誠一郎さんの姿。
「借り物競争って若干イロモノ競技なのに如月君が
「今回のゴールは反対側だからハイタッチはないね」
「これ以上嫉妬の視線に刺さりたくないから良かったよ」
「そんなこと言って~、本当はちょっと残念な癖に~」
「そんなことない…と言えば嘘になるかな。でもアイドルに気紛れのファンサしてもらったようなもんだよ」
「ほんとにそれだけかにゃ~?」
「随分絡むねぇ?」
「たまには現実のコイバナもいいかな、と思って」
「ベーコンレタスが主食の腐カヨちゃんが?」
「もちろん私の脳内では図師君に変換されてるよ。学年のアイドル×漫画家志望のオタク…ぐふふっ、妄想が止まらない」
「妄想だったら現実の話はいらないじゃない」
「ベーコンレタスは
「そうですかい」
腐った話をしていたら既に誠一郎さんはスタートしていた。そして借りる物が書かれた封筒を取る。内容を見てこっちに来る。
ゴールからは遠い反面、封筒には近い私達の席。
借り物を持ってるクラスメイトに宛があるのかな?誠一郎さんの視線が私に向いてる気がするのは自意識過剰…、
「図師さん!」
じゃないんだね。ひょっとして…、
「借りたいのはスケッチブック?」
「スケッチブックを持って一緒に来て」
誠一郎さんが私の腕を取る。
「えぇ!?」
訳がわからないまま引っ張られるようにコースに出る私。
「頑張ってねぇ図師君、ぐふふ…」
観戦する女子達から驚きと困惑の声が四方八方から飛んでくる。
誠一郎さんと手を繋いで走ってるように見えるのかも、正確には手首だけど。
ゴール手前で審査員の教師が立っているところまでくる。
「はぁ、はぁ、はぁ…オタク女子を、急に走らせたら、駄目だよ如月君」
「ご、ごめん図師さん、大丈夫?」
「ギリ大丈夫」
距離がもっと長かったらヤバかったけど、
「確認するから、紙を見せなさい」
「はい、これです」
誠一郎さんが教師に渡した紙を私も覗き見る。『好きな人』とか…は、ないだろうな。
『絵が上手な人』
タイムリー過ぎない!?てか、借り物競争でこんなお題ある!?
でも「スケッチブックを持って」の意味は分かった。
「クラスの応援旗、ほとんど図師さんが描いたんです。他にもスケッチブックに沢山絵が描いてあるんですよ」
誠一郎さんが私の絵が上手いアピールをしてくれる。スケッチブック見せれば合格かな。
と思い気や、
「スケッチブック持参とは用意が良いな、何か描いて見せてくれ」
今描かないと駄目なのか、結構厳しいな。
「図師さん、描ける?」
「任せてくんなませ、如月君そこでジッとしてて」
「え、僕を描くの?」
「私を走らせた落とし前だよ」
「あ、うん、分かった」
私はスケッチブックにペンを走らせる、競争中だから速く描かないとね。
実は誠一郎さんの絵は放課後一緒に残った日から何度か描いている。好きな人をつい描いてしまうのは絵を描ける人あるある。
描いてる最中他の走者も審査に到着、そして連れられて来た人が歌い出した。あっちは『歌が上手な人』かな。
「ほい、完成です」
私はスケッチブックを教師に見せる。誠一郎さんも覗き込む。
「ほぉ~、漫画風というやつか」
「わぁ~、僕が漫画のキャラみたいになってる」
「漫画家志望なもんで、それで審査の方は?」
「クリアだ、通っていいぞ」
「どんなもんだい!」
「さすが図師さん、さぁ行こう」
誠一郎さんが私の腕を取り、二人でゴールテープを切る。
「一位だ!図師さん」
と手を上げる誠一郎さん。今回は2人でのゴール、ハイタッチを断るような無礼な真似は出来ないよね。女子からの嫉妬の炎で焼かれそうだけど、そんなのは後で考えよう。
「やったね、如月君」
バチンっ!
因みに一走目の借り物は全部『○○が上手な人』だったようで、『絵が上手な人』の他は『歌の上手な人』『モノマネが上手な人』『ダンスが上手な人』。
立ちながら素早く上手な絵を描くのは簡単じゃないけど、恥ずかしさで言えば私が一番難易度低いね。
この幸せな日常、私の妄想じゃないよね ニッケン @inonakayokozuna
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