【KAC20236】一生に一度の夢

眠好ヒルネ

一生に一度の夢


 その日はツイていた。ツキにツキまくっていた。

 パチンコ屋のスロットで揃う揃う。

 今どき珍しい普通に数字の『7』が当たりの台だった。

 キャラクター物のコラボじゃないから不人気なのか、誰も座ってなかったしあまり回ってもいなかった。

 だと言うのに、当たる当たる。


 それでも、これだけ当たってるヤツがいるってのに、他のヤツには見えてないぐらい誰も見向きもしていなかった。

 そういえば昔噂程度に聞いたことがあった。

 スロカスに一生に一度の夢を見せてくれる七来ななこ台というのがあると、都市伝説みたいに言われてたのを。

 現実を見れないやつの戯言かと思ったが、もしかしたらこれがそうなのかもしれない。

 これが一生に一度かって言われても、スロット続けてればまたこれぐらい当たることもあるだろう。

 ただ単に今日はツイてる日なだけだ。

 この程度の当たりでオレは終わる男ではない。


 ちょっと不思議に思いながらも、今日の当たりを確定して、ホクホクした懐の重みを感じ、口角が上がってしまった。

 そう、良いんだ。こういう時があっても良いんだ。

 帰りに寄ったラーメン屋で、全部盛りなんか頼んでしまうのも仕方なかった。


「兄さん、この店の全部盛りなんて羽振りがええんやね」


 ラーメンを食ってると、横に座った若いねーちゃんから、関西弁らしいイントネーションで声を掛けられた。

 女に声を掛けられるなんてツイてる。

 ラーメンをすすり終えてねーちゃんを良く見ると、この辺では見ないぐらいのべっぴんで、しかも学生だった。

 方言女子とはソソるねー!

 こんななにも知らなさそうな小娘とは、やっぱりツイてる。


「ちょっとな、これが当たったんだ」


 ここは大人の余裕を見せておいて、どんないいことがあったか手振りで教えてやった。

 小娘に分かるかどうか……


「へー、そうなん? そりゃええな。ウチもその運にあやかれんかな?」


 そう言って身を寄せてくる小娘。

 なんだ、最初からその気なのか。

 こりゃいいな。


「じゃあ、場所変えよか」


「ええよ。ウチな『ななこ』言うねん。名前なんてどうでもええかも知れんけど、折角やし覚えといて」


 ここでも「なな」か。

 やっぱりツイてる。

 その名前は忘れないだろうな。


 ななこを車に助手席に乗せて、どこに行くか?

 そりゃ決まってる。

 適当に近くの──


「兄さん、ウチいいとこ知っとんで。折角やし雰囲気良いとこの方がええやん?」


 そんなことを気にするとか、まだまだ小娘だな。

 まあ、多少は要望を聞いても良いか。

 その分減らせば……


 ななこに案内されるまま、少し街から外れて山へと入った。


「ホントにこの先にあるのか?」


「うん、すぐやで。ほら、見えてきたやろ?」


 確かに道の先に一軒、それなりのサイズの、明らかにそれと分かる目立つ看板の建物が見えてきた。

 ちゃんと分かってんだな。

 オレは心で満足しながら、カーテンの付いた駐車場へと入っていった。


 そこからも望むようにことは進んだ。

 この小娘が意外にやり手で、心も身体も気持ちよくなって、これは色んな意味でラッキーだと、昇天した気持ちになった。


「あっ! ごめん、電話や。すぐ済むからな」


 そう言ってななこは、タオルも巻かずに別の部屋へ電話をしにいって、言葉通りすぐに帰ってきた。


「兄さん、喉乾いてない? スポドリでも飲む?」


 状況が状況だけに、当然喉が渇いている。

 ななこは自分が半分飲んだ後、オレにペットボトルを渡してきた。

 そして、オレが残りを飲んでいる間に、ななこはフラフラしだし、ベッドにうつ伏せになり、眠り出してしまった。

 やけに急に寝てしまって……まさか? このペットボトルになんか入ってるのか?


 と思って構えてみても、自分にはなんの変化も感じられない。

 それなりに激しかったから、喉が潤ってホッとして、疲れが一気に出ただけか?

 このまま残して帰ることも出来るんだが……まあ、今日は良いことが立て続けにあって気分も良い。

 起きるのを待ってやるか。


 しかしそのまま寝るとは無防備な。

 いや、もう、済んでるんだから無防備もへったくれもないかもしれんが。

 いや、しかし、眺めているとまたソソられるものがある。

 また元気になってきた気持ちに促されるまま、ななこの身体に触れていく。

 良い。マジで良い。

 誘ってきたのは向こうだし、もう一回ぐらい良いよな?


 と思ったところで、外が騒がしくなってきた。

 何かあったか?

 眉をひそめてしばらく周りの気配を探っていると、部屋の扉が外側から開けられた!?

 鍵は掛かっていたはずだぞ?!


 そこからは怒涛どとうの展開だった。


 入り込んできたのは警察で、未成年者略取の現行犯がつげられ、現場を見て多くの罪状が足されていった。

 ラーメン屋の証言で、オレは無理やりななこを連れて行ったことになっていて、ななこは睡眠薬で眠らされて暴行されたことになっていた。

 更にパチンコ店での窃盗もなぜか追加されていた。

 オレの言葉は誰も信じなかった。


 どういうことだ?

 何が悪かったんだ?

 オレはツイてたはずだっただろ?

 なぜだ?


「なんでこう、一時の夢を見て、人生を終わらせちまうヤツってはいるもんなのかね」


 警察の誰かがそんなことを言っているのが聞こえた気がした……

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【KAC20236】一生に一度の夢 眠好ヒルネ @hirune_nemusugi

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