天才だと思っていたがそうではなかった。。。

第2話

　神様は言った。

　それは、本当の真実ではないと。

　しかし、この世界に本当に真実があるのだろうか。

　本当の真実とは、何なのか。

　本当。それに真実。

　同じ意味の言葉が重なっている。

　だが、神様が言ったのだ。

　本当にあるのだろう。

　しかし。

　何が本当で。

　どれが真実なのだろう。

　世界はまるで、真実を覆い隠すように。

　僕には何も見えていないのに。

◯

　信号機の点滅。

　僕の歩幅では間に合わないと悟って、とりあえず赤信号で停まる。

　周りには僕と同じように信号機を待っている学生がいる。

　誰しもが群れていて、しかし僕は一人だった。

　片手に参考書。片手はポケット。

　僕は受験生でもなければ、優等生でもない。

　どちらかといえば、3年生への進級がかかっているくらいの落ちこぼれである。

　だが、僕の手には今参考書が握られていた。

「なに読んでるの」

　背後から声が聞こえて振り返ると

　眠そうな瞳を僕の肩越しに参考書に向けている白衣姿。

　黒髪をポニーテールにまとめた、メガネでなんか汗臭い美少女。

　だった腐れ縁。

「くっさ」

　信号機が青に変わって、周りの学生はハンカチを口に当てながら足早に去っていく。

　僕もそうしたい。

　彼女は気にした様子もなく、頭をボリボリと掻きながら視線を僕に向ける。

「信号」

　指示する方向は、また点滅する青信号。

「嫌、僕は走る」

「へーぇ」

　白衣の（臭い）美少女を置いて、開けっ放しのカバンに参考書を放り込んで駆け出すと

　襟元を掴まれて

「ゔゔっ」

　と、変な声を出しながら

「赤信号」

「お前のせいだ」

「私は悪くない」

　ふん。とそっぽを向くが、

　ふわりと鼻孔をくすぐる汗と生乾き。お風呂に入ってなさそうな獣の匂い。

　瞬間に息を止めて

　こいつが美少女でなければ関係を辞めたいところだが

「それはともかく。これを見てほしい」

　とポケットから取り出した小瓶に入っていた、白いドロッとした液体には少しコバエが中に閉じ込められていて

「きったな」

「おっと、これは違った」

　それをポケットに戻して、もう片方から取り出したのは

　一枚の手紙だった。

「僕へのラブレターか？」

「なに？　随分と昔に捨てたことをまだ根に持ってるの？」

　確かに、小学生の時眼の前で破り捨てたが

「残念だけど、これは私の手紙ではないの。

　知り合いが手に入れた、【呪いの手紙】だよ」

「呪い？　また非科学なこと、

　でも、僕には時間がないからほかを当たってくれよ」

「今日の放課後に、科学実験室で待ってる」

「やだよ。今日の放課後は、さっちゃんの補修なんだ」

　進級テストで合格するために、さっちゃん先生が僕のためだけに開いてくれる国語数学英語の特別補修だった。

　歩き始める白衣の風下に立たないようにしながら、青信号で横断歩道を渡り切ると

「実は、この手紙には佐倉先生への愛が囁かれている」

「それは、もしかして僕の部屋のゴミ箱から入手してはいないよね」

「さぁ、どうだろう。

　知りたければ放課後に科学実験室に来ることだね」

「今教えないと、連続で風呂に入ってない期間を全校放送するぞ」

　彼女は不敵に笑いながら

「それは脅しにならない。

　君以外、私に近づかないし、

　今、私が履いているパンツが2週間洗っていないことが証明している」

「確かに。なんかいつにも増してアンモニア臭いと思った。

　でも大丈夫か？　僕でもそろそろキツくなってきたけど、どうしていつもそんな状態でも学校には来るんだよ」

「まぁ、家にいるよりは、材料が揃っているからね。

　呪いと怪異は人が多い場所のほうが集まりやすいからね。

　こんな田舎では特に、学校がちょうどいいのさ」

　変な研究ばかりしている彼女の頭脳は高校の域を超えている。

　3年生に上がる前から大学の研究室から声が掛かっているくらいで

　実は授業だって免除されているのだ。

　だが、学校に来るのは、誰からも邪魔が入らず、そんな環境で且つ、集まる人間が多いことによる。

　ショッピングセンターや繁華街は持っての他。

　彼女の匂いが悪目立ちするし、そもそもそんな場所で落ち着いて研究などできないのだろう。

「いや、勝手人すればいいが

　でも、本当に今日はさっちゃんの授業があるから無理だよ」

　おもむろに、彼女は手に持った【呪いの手紙】なるものを広げて声に出して読み始めた

「【12月7日：佐倉ひなちゃんは朝、教室で嘔吐して倒れる】」

「はぁ？」

「【佐倉ひなちゃんはいつしか僕の子供を妊娠していたのだ】」

「おい。なにを」

　僕はその気色の悪い手紙を、彼女の手から取り上げようとしたが

　ちょうど、その時救急車がサイレンを鳴らして眼の前の学校へ入っていくのを見た。

　目を合わせるとすぐに、僕と彼女は学校へ走り出した。