天才だと思っていたがそうではなかった。。。

藤乃宮遊

第1話

 それは僕ではなかった。

 

 世界は僕を中心に回っていなかった。


 僕は置いていかれたのだ。


 全ては僕の手のひらの上だと思っていた。


 何もかもが、ポロポロとこぼれ落ちていく。


 そうして、世界は色を失った。




「おいおいおい。どうした。そんなに俺が怖いのか?」


 両手で顔を覆って、次のパンチから身を護る。

 正直痛くはない。


 しかし、こうでもしないとあとからが怖い。


 次々に拳が僕の体を叩く。

 もう前を向いていないが、一人ではないだろう。

 数名、参加者がいるのだろう。


 だが、痛くはなかった。


 いつしか飽きたのか、彼らは僕を放ってどこかに行った。


 体には青あざがたくさんあって、

 顔には切り傷。

 腕にはたくさんのかさぶたがあって。


 家に帰って、自分の部屋にこもって小さな魔法陣に

 僕の腕から滴る血を垂らす。


「どうか、アイツラが死にますように」


 今年に入って数百枚に登る、そのよくわからない魔法陣。

 

 悪魔崇拝の本に書いてあった、エセ魔法陣。

 それは理解していた。

 しかし、描いてある魔法陣すべてが偽物だと誰が言ったのか。


 これで24冊目になる本の最後の魔法陣。


 やはり、紙質が悪いのか。

 それとも、インクが悪いのか。


 悪魔が降臨していたのは数百年前。

 その時に使われていたインクは何だったのだろう。


 いや、環境が悪いのだろうか。

 こんな現代の、たくさんの機械が置いてある僕の部屋で

 悪魔なんて召喚する環境ではないのかもしれない。


 だが。


 一瞬。

 光ったその魔法陣は、金色に光っており

 ボールペンで書き写した真っ黒の魔法陣から変貌している。

 更に、真ん中に垂らした僕の赤い血も、綺麗さっぱりなくなっていた。


「これは!!」


 興奮していた僕の目の前を多く真っ黒な世界。


 瞬間に僕の両目がなくなったのだと理解した。


 空洞になったその双眸。空気が触れて冷たく刺さるような感覚があった。

 眼球がなくなったのに、僕は痛みを感じていなかった。

 それは、興奮によるものか。


『否。貴様はすでに悪魔と契約しているにも関わらず我とも契約を交わそうとしているのか。』


「悪魔を召喚できたのはこれが初めてだよ」


『否。我は悪魔ではない』


「文脈的には、君も悪魔だろ」


『我は賢龍王ファーヴニルである』


「では、賢龍王様。

 僕の両目を返してください」


『できぬ。それは我を呼び出したときに消え失せた』


「では、僕と契約して僕の代わりに世界を見てください」


『できぬ。我は動けぬ』


「ぬぬぬ」


『代わりに魔眼をやろう。

 我はそれをもって契約を遂行したとみなす。

 さらば』


「お、おい! まてって!!」




 次に、視界が開けたときには、すでにその威圧感の主はそこにはおらず 

 先程あったはずの魔法陣が燃えて崩れ、机は黒く煤けていた。

 

 視界は良好。と言うか前と何も変わらない。

 

 先程の真っ黒な世界。

 眼球がなくなった感覚は嘘のように、


 世界は元通りだった。

 

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