今日の天気はダイヤモンド

紫陽花の花びら

第1話

 

 人は泣いて悲しみを流すって誰が言っていた気がする。

でも、噓だ。

泣けば苦しいよ。泣けば後悔するよ。

僕は知っている。


 ここはどこ? 眩しいなあ。クラクラするよ。

ガガガガゴンゴンガガガガゴゴンゴン……

なんの音だ? うるさいなあ。耳が痛くなる。


「起きたよ! お母さん」

「良かった! お水飲む?」

「えっ! あっはい、頂き……ます」

ごくごくうーん美味しいなあ。僕は人心地つくと部屋を見回した。

綺麗だ。そこかしこに光る塊が飾られている。

「あの、この輝いている塊はなんですか」

「これ? これはダイヤモンド。ガガガガ聞こえるでしょ? 削りだしているのよ」

「ダイヤモンドって! あの鉱石ですか? 高いんですよ! 僕のおばさんなんて、こんな豆粒みたいな物を買ったって喜んでいましたよ。だからこんなの見たら気絶します。いやー心臓止まるなー確実に」

僕の話を不思議そうに聞いているこの人たちは誰だろう。

「へぇ~そんな変わった人いるんだ。こんな石ころ。面倒くさいだけ」

「面倒くさい?」

「そう! 使えるまでにはするには、女の子たちが一生懸命研くんだよ。疲れるだけ!」

「贅沢なこと言ってるなあ」

「はあ? 何にも知らないくせに!」

女の子は怒って部屋を出て言ってしまった。

「気にしないでね。いつもああなのよ。すぐ怒るの。年頃ね、あなた幾つ?」

「僕ですか、十六才です」

「まああの子と同じ年ね。落ち着いているからもう少し上に見えたわ。

あっそうそう、ここね地下だから窓とかがないの。驚くといけないから、先に言っとくわね。さてと、お夕食の仕度してくるから。それまでゆっくり休んでてね」

お母さんらしき女性はそう言うと部屋を出て行った。

地下って……まさか地底人! んなわけあるか。別段あの人たちに変わった様子もないしな。どうしたんだ? 何があったんだろうか。

 暫くして僕は部屋を出てみた。

仕事から帰ってきたのか、その男性は入口近くで工具らしき物を片付けていた。

じっと見ている僕に気づくと、

「おー目が覚めたのか、よく寝てたぞ。ところで飯は食ったか」

首を横にふると、

「じゃ、こっちにお……」

キッチンらしき部屋から、あの女の子が勢いよく出来たかと思ったら、その男性に思いっきり飛びついた。

「おかえりなさい! パパ!」

「ただいま。いい子にしてたか?」

「やめてよーもう子供じゃないんだから」

「アハハハ。それはそれは失礼したね。さあおいで」

僕を先頭に三人でいい匂いのする部屋に入ると、テーブルには美味しそうな料理が並んでいる。僕は美味しい夕食をお腹一杯ご馳走になった。


それから何故地下で暮しているかその訳も判った。


 地上に降り出した悲しみの雫と赤い雫が止まない事で、太陽が消えてしまい、生活ができなくなり仕方なく地下へと移り住んだそうだ。

もう何十年もこの状況は変わらないどころか、最近では泣き叫ぶような落雷が落ちてくるようになったと聞かされても、僕には想像すらできない。

女の子は太陽をも星も、そう空さえ知らないくて、全て本の世界でしかないと寂しそうに笑っていた。

 燦々と降り注ぐ太陽の暖かさも、キラキラと瞬く星も見たことないなんて。

僕は、風の音、雨の美しさ、花の香り、緑の木立、お月さま、思い浮かぶありとあらゆる自然の美しさを話して聞かせてあげた。

女の子は興味津々に聞いてくれた。そして夢見心地な様子で、

「いつか私も見られるよね? 感じることができるよね! そしたら……もしそうなったら……ニュースで今日の天気はダイヤモンドです。一日中美しく光輝いているでしょう……なんてバカバカしい事を聞かないですむんだね」


うんと頷いたところで僕は叩き起こされた。

「おい! 起きろ! 移動するぞ」

慌てて荷物を担いであたりを伺う。

先頭の号令に合わせて壕から這い出る。


遠くに閃光が……瞬く間に空は爆弾の雨を降らせる。

ピシャ! 赤い雫が顔にかかった。拭うまもなく匍匐前進で前へ前へ。

声をかけることもなく、振り返ることも許されない。

泣くな! 泣くな! 進め進め進むんだ!。


頭の中であの言葉が繰り返される。

「今日の天気はダイヤモンドです。一日中光輝いているでしょう」


ごめんね……ごめんね……僕たちだった。いつ終わるとも判らない戦いに

ハマっている馬鹿な人間は。太陽を消してしまった張本人は。



もう一度食べたいな。あの美味しい夕食を。

もう一度話したいな。あの女の子と。


もう一度、もう一度見たいな。あの夢を。


遠のく爆音。あぁ…眠い。とても眠いよ……


泣くもんか、泣くもんか。でも悲しいんだ。寂しくて苦しいよ。

そして怖いよ! 誰か助けて……


取り戻したかった。僕が取り戻したかったんだ。


陽射しを見せあげたかったなあ。


「今日の天気は快晴です。一日中気持ちのいい日差しを浴びることができるでしょう」


終わり













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日の天気はダイヤモンド 紫陽花の花びら @hina311311

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ