戦果報告
私はある国の将軍である。
昨日、大国との戦争に勝利した。侵略戦争で圧倒的な勝利を収めたのだ。
そして今、国王陛下の前で成果を報告している最中だ。
「今回、我が軍は〇〇国と交戦。その結果、多数の地域を占領することに成功しました。そして……」
言葉を詰まらせてしまい、陛下が心配そうな顔をしていた。同席する貴族たちは不思議がる目つきで私を見た。
早く華々しい戦果を伝えないか、そんな視線を送らないでくれ。
調子を取り戻し、報告を続けた。
「〇〇国の住民を多数捕虜とし、抵抗する者は殺害。見せしめとし……」
口を上手く動かせない。
報告を拒むかのようだった。
感情があふれ出るのを抑えつつ、報告も最後の箇所へ。
「我が軍の損害は、戦死者が数千名。負傷者がその数倍。手足を失った者もおり……現在治療中で……あります」
言い終わると同時に、私の感情はあふれ出していた。もう耐えられなかった。
私の指揮に従い、敵に立ち向かって死んでいく兵士が見せる恐怖の顔。
故郷や家族の名を呟きながら、最期を迎える兵士の姿。
自身が傷ついているにも関わらず同郷の仲間を背負い、野戦病院に送り届けると同時に息絶える兵士の安心しきった様子。
数千通りの死に様、そして現在進行形で失われていく男たちのことを思えば、もう限界だった。陛下の御前で泣き叫んでしまった。
「陛下の目の前で、なんという失礼な行為。将軍ともあろう者が醜態をさらすとは」
「我が国の若者が大勢死んだのは、あの男のせいですわ」
貴族はぶつぶつと私の情けない姿をなじりあった。
それを一喝したのは陛下であった。
「お前たちは亡くなった者たちに申し訳なさを感じている彼を、そのようにあざ笑うのか!失礼なのは、お前たちの方ではないか。彼の痛みを増幅させる態度を何の恥じらいもなく見せられるとはな!!」
私の近くまで陛下は歩み寄り、優しく告げた。
「心の痛みを二人で分け合おうではないか。君の心が少しでも癒されるように、私が力を貸そう。君一人で抱え込むことはない」
その言葉が嬉しかった。人目もはばからず、涙でくしゃくしゃになった顔で陛下にお礼を述べた。
痛みについてあれこれと 荒川馳夫 @arakawa_haseo111
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