どろぼうさん
とある小学校の1年生教室で特別授業が行われた。
有名な科学者が、子どもたちの質問に答えてくれるというものだった。
「今日は、動画サイトでいろいろな実験を行っている〇〇さんに来てもらいました。皆さん、元気にあいさつしましょう。おはようございます」
「「「おはようございます」」」
担任の先生に続き大きな声であいさつをする子どもたちに、〇〇さんもほっこり。
あいさつがおわったかと思えば、さっそくの質問攻めが始まった。
「どうして、お空は青いんですか?」
「ひこうきはどうしてとべるの?」
「どうしたら、体が大きくなれますか?」
素朴な質問に、丁寧に答えていく科学者に子どもたちは大喜び。
「そうなんだ」と納得していく様子を見せた。
しかし、ある男子児童だけが不満な顔をして、質問をしなかった。
担任の先生が訳を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「だって、ぼくがふしぎだなあっておもってることにぜんぶこたえちゃうんだもん。つまんなくなっちゃった。おじさんは『ふしぎどろぼう』さんだよ」
担任の先生は児童の言葉を詫びたのだが、科学者の〇〇さんは気にする素振りを見せずに男子児童に謝ることで、その場は収まった。
特別授業が終わり、帰宅した〇〇さんは大きなため息をついた。
小さな声で呟いた。
「想像力を働かせて新しいものを生み出していく科学に携わる私が、子どもたちから『考える楽しみ』を奪ってどうするんだ……」
男の子を傷つけ、自分も傷ついた。しかし、現在の科学では心の傷をいやす方法は確立されていない。
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