奪うこと、救うこと

銃や剣で戦っていた昔のお話。

一人の男が戦場で大きな活躍をした。

武器を使い、多くの敵を討ち取ったことで国王に表彰された。


「国のためによく戦ってくれた。感謝しておるぞ。ところで……」


王は男の片腕を見て、こう続けた。


「戦で小指を失ったそうだな。大丈夫かね?」


「いえ、陛下。ご心配なく。この程度の苦痛。なんともありません」


言葉からは強気な様子がうかがえるが、欠損部をさする様子を見かねて王は優しく告げた。


「今までご苦労だった。君は十分な貢献をしてくれた。いつ君が神のもとに召されるかは分からないが、残りの時間を自分のために使いなさい」


ありがとうございます……。かすかな声で涙を浮かべつつ、男は感謝を述べた。



それから数年。退役した男は故郷の町で医師として活動していた。


「おじさん。指を切っちゃいました」


「おお坊や、じゃあ塗り薬をつけてあげよう。これでよくなるからね」


貧しい家庭の患者にも分け隔てなく接する態度は、たちまち評判となった。

彼は『九本指のお医者様』として名前が伝わっていく。


そんなある日、故郷の近くで戦があった。多数の男が負傷し、彼のもとに患者として運ばれてきた。


「私だけじゃ足りん。町民たちを呼んで、手伝ってもらわねば」


町総出で人命救助が行われ、敵味方関係なく手当てをした。彼にとって、傷ついて困っている者に敵も味方もないのだ。


ひと段落すると、一人の兵士がやってきた。


「あんた、一時間で一人しか救えなかったのかよ。俺は一時間の戦闘で10人の命を奪ってやったぜ。名医と聞いたんだが拍子抜けだな。ハハ……」


場違いな兵士の一言に彼は怒り、兵士の首に向けてメスで切りつけた。

グオッと呻き、兵士は首をおさえた。血が少量流れていた。


「お前たちはデカい刃で命を奪うのが仕事なんだろうが、私はちっぱけな刃で消えそうな命を救うのが仕事なんだ。どちらの方が尊いことが分からぬのなら、出ていきなさい!」


あまりの迫力に押し黙る兵士。少しの間があってから医師が告げた。


「首の傷だが致命傷にはなっておらん。後で手当てをしてやるから、落ち着いたら来なさい。お代はいらないから」


言い終わると、患者の手当てに戻った彼を見て兵士は悟る。

あの刃裁き。見えない一撃。老いたとは言え、あの男は健在なんだと。























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