やけど

私は妻と幼い息子の3人暮らし。

ある休みの日に、そろってラーメンを食べることにした。


「ちゃんと、フーフーして食べるのよ」


妻の注意を聞かず、熱々のラーメンを食べようとした息子は案の定、


「あつい!」


と舌を指さして伝えてきた。幸いなことに、軽いやけどで済んだ。


「いたくて、ピリピリしてる。きもちわるい」


体全体で苦痛を表現する息子は『やけど』という現象を学んだのか、以後少し待ってからラーメンを食べるようになった。



後日、3人で焼肉を食べに行った。

肉が鉄板の上でジュージュー焼かれるのを見て、おいしそうだとはしゃぐ息子。

そして、焼き終わると皆で食べようとした際、


「ねえ、これはどんなおにく?」


と聞いてきた。


「これは牛タンっていうんだよ」


「ぎゅうたん?」


「牛はうしさん、タンは舌。だから、牛の下を焼いて食べるんだよ」


「……ぼく、たべない」


急に暗い顔をして、食事を嫌がる息子に理由を尋ねると、


「だって、いたそうなんだもん。ぼくもしたをいたくしたから」


我が子の優しさに感心しながら、こう説明した。


「牛さんはもう死んでいるんだよ。だから、痛みは感じないんだよ。だから安心しなさい」


「そうなの?じゃあ、たべる。でも、いたくないようにやさしくたべる!」


そう言うと、息子は牛タンをゆっくりと嚙みながら食べていった。

後で聞いてみたら、息子流の牛タンが痛まない食べ方だったと分かった。


自分が痛みを経験しているからこそ、優しくすることを学ぶことができたのだ。











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