花が咲くまで初見月。

あきかん

花が咲くまで

 本当に咲くのかな。

 と、ベランダのサボテンの横でタバコに火を付ける。カチッとなるライターからオレンジ色の火が灯る。そこにタバコの先を当てて息を軽く吸う。先が灰に変わり煙が肺を満たす。

 月が見えない。夜空は雲に覆われている。あいつと出会ったのは月が見える夜だった。酔っ払っていた俺とあいつは道で肩がぶつかりいがみ合った。

 酔って気が大きくなっていた俺は殴りかかった。それをいとも簡単に防がれて首に腕が巻かれ、そのまま持ち上げられた。

 身体が逆さまになった時、そのまま俺たちは地面に墜ちた。いわゆる垂直落下式DDT。しかし、俺の頭が地面に当たることはなく見た目が派手なだけのプロレスであった。

 一緒に地面に伏している間、あいつの身体を弄ると服に隠れていた鍛え上げられた肉体を感じられた。格が違う。プロレスラーか、死ぬな。と思ったときに警察が駆け付けてきた。

「大丈夫ですか?」

 と、呑気に声をかけてくる警官。

「じゃれ合っているだけですよ。」

 と、あいつは俺を起こしてそれに答えた。確かに俺は何処も負傷していない。見た目は派手なプロレスに周囲が騒がしくなっていた。

 あいつは俺の手を取り、

「飲み直そうぜ!」

 と、明るく言ってこの場を離れた。

 何故かあいつの部屋に連れ込まれた。何をされても仕方ない。弱い俺が悪い。と、達観していたが普通に酒を出してきた。

 ストロング缶を2つ。それを二人で同時に開けた。

「素人に悪かったよ。俺も酔っ払ってて」

 と、申し訳なさそうに答えるあいつは笑ってた。

「リングに立っているのか」

 と、俺は聞いた。

「あー、いや、しばらく立ってねえや」

 あんな完璧なプロレスが出来ても立てねえのかと驚いた。

「ちょっと故障しててな」

 と、あいつは付け加える。

「まぁ気を落とすなよ」

 何でこんな事を言ってんだ、俺は。

 それから夜が開けるまで呑み明かしあいつの部屋を出た。

 「これ、引き取ってくれねえかな」

 と、渡してきたのがこのサボテンだ。月下美人というらしい。

 「今度の満月の夜に咲くらしい。俺の代わりに見てやってくれ」

 と、あいつは言った。その日がちょうど復帰戦ということらしかった。


 月が見えんな。

 あいつは今頃リングに立っているのかと思うと何とも言えない気持ちになる。

 タバコを一気に吸って煙を吐く。サボテンの華はまだ咲いていない。

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花が咲くまで初見月。 あきかん @Gomibako

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