10番テーブルだった。


 陣内さんがいた。


 また、ケガが増えてた。


 わたしは、


「ご注文はお決まりですか?」


 って言った。


「ほうれん草のソテーをひとつ」

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


 わたしの言葉に、ケガだらけの陣内さんがうなずく。


「それではご注文を繰り返します。ほうれん草のソテーが一点。以上でよろしいでしょうか?」

「はい。お願いします」


 いつもと同じ受け答えを終えて、わたしはカウンターにもどった。




 陣内さんは、冴えない見た目のただのおじさんにしか見えないし、いつも白Tシャツにチノパンだから、なんの仕事をしている人なのか、だれにも分からない——



 ——わたし以外は。

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陣内さんの仕事 ノコギリマン @nokogiriman

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