——ピンポーン


 四か月目。


 陣内さんのお仕事を知ってから、ヤバイ人なのかもしれないと思いながら、わたしは陣内さんがここへ来る前に倒してくるだろう「怪人」を調べるようになった。


 すでに五十体以上の怪人を倒している陣内さんの今日の相手は、「怪人モグラゲリラ」だった。名前どおり、モグラみたいに穴を掘って攻撃してくるタイプ。


 ちょっと心配だったけど、いつもの時間のいつもの呼び出し音に、安堵。


 そしてまたほうれん草のソテーの注文をうけたわたしは、


「モグラゲリラ、強かったですか?」


 って、聞いた。


「ええ。強かったですよ。なんとか倒せましたが」

「どうやって倒したんですか?」

「ヤツは地中から地面の振動音を聞いて、わたしの場所を把握して襲ってきていたんです。それでわたしは、必殺技のひとつ『ピストンバルカンキック』を応用して、場所を分からなくして、倒しました」

「すごい!」

「まあ、ですから」


 まんざらでもない顔の正義の味方は、額にまかれた包帯を掻いた。


 来るたびにケガが増えていく陣内さんは、もしかして本当に正義の味方なのかもしれない。


 わたしは尊敬の念をこめて、深く頭をさげてカウンターにもどった——




 ——そして今日。


 陣内さんは、六時半になっても現れなかった。


 今日の相手は、ラスボスカル将軍。

 名前からして、たぶんラスボス。

 陣内さん、苦戦してるのかな?


 心配しながら待ってたら、七時半を過ぎた。

 でもまだ、陣内さんは現れない。

 陣内さん、やっぱりだいぶ苦戦してるっぽい。


 わたしは八時上がりだったから、あと三十分のうちに陣内さんが来ないと、このまま心配しながらつぎの月曜日まで過ごさないといけない——


 

 ——七時四十五分。



 そわそわが止まらない。


「おい吉田、なんか落ち着かねえな」


 小俣さんの声も、ぜんぜん耳に入らなかった——



 ——ピンポーン



 七時五十分。

 

 呼び出し音が鳴った。

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