3
——ピンポーン
バイト二ヶ月目。
まだ覚えなきゃいけないことばっかりだったけど、少しは仕事ができるようになっていたわたしは、陣内さんの接客をよくするようになっていた。
「ほうれん草のソテーをひとつ」
「以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「それではご注文を繰り返します。ほうれん草のソテーが一点。以上でよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
デジャヴのデジャヴみたいなやり取りを終えたとき、テーブルのうえのスポーツ新聞が目に入った。
上を向いた一面には、『怪人、また現る⁉』という大きな見出し。
一年くらい前から、スポーツ新聞とかワイドショーとか、ネットとかでも「怪人」が話題になっていた。
首長怪人ヘルキリンだとか、ライオン怪人タテガミバンチョウだとか、目がいっぱい怪人ミエルデビルだとか……
そんなの信じるほうがバカだと思うけど、毎回、目撃談がいっぱい出てきて、一週間後にはまたべつの怪人の目撃談で盛り上がって、一週間ごとに入れ替わる怪人を、一年間もずっと飽きもしないでみんな楽しんでいた。
「興味がおありですか?」
とつぜん陣内さんに言われたわたしは、
「あー、まー、興味がなくもない感じです」
って、国会答弁みたいなあやふやなことを言った。
「怪人、恐ろしいですよね」
「はあ、まあ……」
「この怪人たち、一週間でいなくなってしまうでしょう?」
「はい」
「これね、わたしが倒しているからなんです」
ヤバイ。ヤバイ人だ。
「あー、そうなんですね」
「そうなんです」
「えーっと、その……つまり陣内さんは、正義の味方なんですか?」
「そうなんです。この怪人、さっき倒してきました」
「へ、へえ……」
ヤバイ。ヤバイ人だよ。マジヤバイ。
「一仕事を終えたあと、ここでほうれん草のソテーを食べるのだけが、わたしの楽しみなんです」
「……お疲れ様です」
「いや、これも世界平和のためですから」
言って笑う陣内さんの顔には、ウソのかけらもなかった。
「が、がんばってください。応援してます」
「ありがとう」
わたしはなんとか接客スマイルを浮かべて、カウンターにもどった——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます