——高二になって、大学進学と上京を本気で考えはじめたわたしは、とりあえず「簡単そうだし、時給けっこういいし」という理由だけで、ホールスタッフのバイトをはじめた。


 ぜんぜん、楽じゃなかった。


 覚えることがいっぱいで、夕食どきにはもう目が回るくらいで、それ以外の時間も「辞めたい」と思うヒマもないくらい、ずっとずっと忙しかった。


 時給900円が、高いのか安いのかも分からない。


 そんなわたしが初めて注文を取ったのが、陣内さんだった——


 ——ピンポーン


 バイト初日。


 はじめてのピンポンに緊張しながら窓際の10番テーブルに行くと、そこに陣内さんがいて、


「はじめまして。わたしは陣内と言います」


 と、なぜか自己紹介をされた。


「は、はい。わたしは吉田です」


 思わず自己紹介返しをしたら、指導の小俣さんに小突かれた。


 わたしは、「すいません」ってふたりに言って、


「ご注文をお伺いします」


 って、あらためて言った。


「ほうれん草のソテーをひとつ」

「はい」

「……」


 まさか注文が一品だけとは思っていなかったわたしは、しばらく陣内さんと一緒に沈黙してから、


「……えっと、ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


 って、確認した。


「はい。以上で」

「それではご注文を繰り返します。ほうれん草のソテーが一点。以上でよろしいでしょうか?」

「はい。お願いします」


 はじめての注文がおわって、わたしはホッとしながら小俣さんとカウンターに戻った。


「ほうれん草のソテーだけって、珍しいですね」

「やっぱそう思うよな。いつもなんだよ。それにちょっと、なんかヤバイ人だったろ?」

「ええ、まあ、たしかに……」


 たしかにヤバイ人なのかもしれないけど、わたしは陣内さんにすこし興味が湧いた——

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