一話

銃を撃ってみたいと思ったことは無い?


初めておもちゃの銃を握った時のことを、今でも覚えている。人に向けると危ないと解っていながら、人に撃ってみたいと興奮した。


本物の銃を握った時、同じことを考えるだろうか?


銃が好きだった。それが何に使われてきたか知りながら、かっこいいと思ってしまって憧れた。


銃を打ち合うゲームが好きだ、自分が操作しながら、こんな風に銃を撃ってみたいと夢を見た。


中二病なのは解っている。でも大人になってもこの感覚がなくなるとは思えなかった。


仮に銃を握ることが出来、そこに弾が込められていたとしても、銃を撃つことはできないだろう。包丁やナイフを握っても、人を刺さないように、引き金を引けない。


撃ってみたいだけで人を撃てるのは異常者だ。


でも・・・もし人を撃てる状況になった時、人は引き金を引くことが出来るだろうか?


その引き金はどれほど重いのだろうか。




タタタ・・・カチッカッチッ・・・・・タタ・・・タタタ・・・・


真っ暗な部屋で、キーボードとマウスのクリックの音だけが聞こえる。明かりはパソコンのモニターだけだった。その前で操作してる男が、仕事や調べものでパソコンを操作していないことは、一目見ればわかった。


モニターには一人称の視点で、キャラクターが撃ち合っている。


『左いった・・・・そいつ殺せる。ラビット』

「了解。」


耳につけたイヤホンの声に、黒川白兎は答えた。ラビットは白兎のプレイヤー名で、名前そのままだった。


走って逃げる敵に、スナイパーライフルを向ける。スコープに映る敵の進行方向より少し先に、照準を向けた。


カチッ・・・・・

『ダンッ』


白兎のクリックと同時に、敵の頭は打ち抜かれ、画面の下にはヘッドショットと表示されていた。


『ナイスショット・・・こいつ最後の敵だ。』

『うまああああああああああ!』


victoryという文字と共に、仲間の二人が声を上げた。


『ラビット、本当にスナイパーうまいね。』

『どうやってそんな遠くから正確に当てるんだ?』


仲間の二人が僕の狙撃に関心している。仲間のレイナとハンバーグ丸は、白兎と三年近く一緒にゲームをしている仲だ。しかし、彼らはお互いの顔を知らない。ゲームで出会った。ゲームの友達だった。


「狙って撃ってるだけだけど?」

『うわ・・・・嫌な感じ。』

『あはははははは。」


白兎は少し嫌らしく答えると、レイナは少し呆れながら笑い、ハンバーグ丸は笑った。


『そういえばさ、二人ともエアガン・ゲームて知ってる?』

『なんかメール来てたね。』


唐突にハンバーグ丸が呟き、レイナが応答した。白兎は自分のメールを確認した。自分のメールにも知らないアドレスから、エアガン・ゲームの通知が来ていた。


『なんか本物の銃が手に入るって、いろんなゲーマーにメールが届いたらしいな。』

「本物の銃。」

『うさんくさ・・・・・・』


ハンバーグ丸の話に白兎は興味を沸かせ、レイナは呆れた声を出した。


『しかも、ゲームをインストールして、もらった銃はほかの人には見えないらしいよ。撃ってもプレイヤー以外銃声が聞こえないらしい。』

「なんだそれ・・・・」

『あほ草・・・・・』


聞いていた白兎も呆れた声を出し、レイナは聞くのもあほらしいといった雰囲気だった。


『でも、本物の銃欲しくないか?』

「それは、そうだけど。」

『一緒にインストールしてみようぜ。』

『やめときなよ。』


面白がるハンバーグ丸を、レイナは止めようとした。うさん臭くも思ったが、白兎はその話に興味を持っていた。


「いいよ、俺もそのゲームインストールするよ。」

『本当に言ってるの?』

『レイナはどうする?』

『はぁ、気乗りしないけど別にいいよ。』


レイナは渋々と返事をした。白兎は携帯のメールを開き、エアガン・ゲームをインストールした。


『ラビットそろそろ時間じゃない?』


レイナの言葉に、白兎はパソコンの時間を見た。時間は午前の6時50分を刺していた。


「もう学校の時間か・・・・」

『大変だね学生は。』


ハンバーグ丸は学生ではない、会社に行っていないから社会人とも言えないが、FPSゲームの色々な動画を編集して、動画投稿サイトで生計を立てている。たまに自分のプレイ映像や、白兎達とのプレイ動画も配信している。


「学校行きたくないな。」

『行きなさい、私も学校の準備しなきゃ。』


レイナは白兎と同じ学生だ。しかし、中学生なのか、高校生なのか、大学生なのかは分からない。


「了解、俺落ちるね。」

『私も落ちます。』

『はーい、行ってらっしゃい。』

「行ってきます。」

『行ってきます。』


白兎はゲームからログアウトし、パソコンの電源を落とした。後ろを向き、気だるく学ランに手を伸ばした。


カーテンを開けると、外は明るくなっていた。分厚いカーテンで光を完全に遮断しているので、外が朝になっている事に気付かなかった。


「そういえば。」


白兎は携帯を見た。エアガン・ゲームはすでにインストールされていた。


「どうやったら銃がもらえるんだ?」


試しにゲームを起動してみると、キャラクター名の作成と表示された。


ラビット


キャラクター名を入力すると、ポイントによる武器購入画面が表示された。


「すごい種類があるな。」


画面には世界の銃がほとんど乗ってるのではないかと思うほど、多種多様の銃が表示されていた。しかし、所持ポイントが、スタート時点では5ポイントしかなかったため、ハンドガンしか購入できなかった。


「このポイントどうやって貯めるんだ?」


ポイントの貯め方はチュートリアル中だからか、表示されていなかった。ハンドガンを購入しなければ、先には進まないようだった。


「グロックあるな。」


白兎は画面でハンドガンのグロックを購入した。画面ではグロックが購入済みになっっていた。


「これ買ったけど・・・・どう貰うんだ?」


白兎を首を傾げた。住所を入力する訳でもなく、ゲーム画面に映っているだけだった。


「やっぱり・・・」


ため息をつき、画面を閉じた。本当だとは思っていなかったが、少し期待していたのも事実だった。


ガチャ・・・・・・


何か鉄が落ちるような音が、白兎の目の前の机から鳴った。


「・・・・・え?」


携帯を下ろして机を見ると、そこには先ほど購入したグロックが置いてあった。


白兎は驚きのあまり声が出なかった。ゆっくりと近づき、拳銃をグロックを拾った。そこにはエアガンや、モデルガンでは出せない重みが、手から伝わってきた。


マガジンを取り出し覗くと、そこにはビービー弾ではなく、弾丸が込められていた。


「まさかな・・・・・。」


白兎は銃の安全装置を外し、トリガーに指を掛けた。銃を構えてみたが、異様な状況から、引き金が引けなかった。


「おい!」

「うお!」


パアン・・・・・・・


白兎は凍った。初めて聞いたその音は、分厚い風船が割れたようだった。急な声に驚き、引き金を引いてしまった。


「兄貴・・・・ちが・・・・これは・・・」


白兎は声をかけてきた兄から拳銃を隠した。もう遅いと上に、銃声も聞かれては言い訳も何もない。


「何言ってんだ?朝飯できたぞ?」


兄は首を傾げた。白兎の姿を見て少し笑っていた。


「いや・・・これ。」


白兎は逆に首を傾げ、兄に拳銃を見せた。


「何が?手がどうした?」


差し出された腕を見て、兄は再び首を傾げた。そこには何もないように、白兎の手だけを見ていた。


「馬鹿言ってないで早く飯食えよ・・・皿洗っちまうから。」

「え・・・あ・・・うん。」


兄は笑いながら部屋を出た。火薬の匂いと混乱だけが部屋に残った。


再び携帯を見ると、そこには新しく何か文字が表示されていた。


〈この銃はNPCには見えず、この銃で殺しポイントになったNPCとプレイヤーは誰からも見えない。まるで空気のような殺し合いをお楽しみください。さぁ・・・・・エアガン・ゲームを始めよう。〉














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エアガン・ゲーム 伊流河 イルカ @irukawa

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