第2話
窓際に置かれた、一体の
一時代前までは、その人形を買う世帯といえば金持ちか見栄っ張りだけと言われていた。
高価な代物でもあったし、世間の偏見の目もあったりと売れ行きは今一つだったと聞いている。何より、マネキンが家の中を闊歩している、又は中途半端に機械と人が相まって気味が悪いと機能性は別として、イメージが最悪だった事もあるだろう。
まだ僕が子供だった頃に見たCMは、今でも動画でネタにされる程に絶大なインパクトを放っていた。
何たって、マネキンがぎこちなく家の中で歩き回って家族の代わりに家事をしているのだ。無表情で、瞬き一つしない如何にも作り物な顔。その横でにこやかに家族団欒と過ごすホームムービーは寒気がする程に薄気味悪いものだった。そして当然の如く放送して一週間もしないうち不気味すぎるとクレームが殺到し打ち切りとなったのだ。
話題性としては抜群で、機能性としては上等だった商品は金持ちや物好きには売れる結果となった。が、イメージ広告として相当に不名誉な結果は今も尚、ネット上の動画サイトではネタとして弄られている。
その時代、好まれたのはもっと『ロボット』と言う固有名詞で呼ばれる様なデザインだ。
アンドロイド、ヒューマノイドという商品の一種ではあったが、人の形に似せてはありながらも、見た目にも人ではないものと線引き出来る形をした物だ。
角ばって、動作の一つとっても機敏さも見られないが、まあそれがペットみたいで可愛いと専らの評判だった。一般家庭と呼ばれるる程度の年収の者はそちらを購入しただろう。
何たって、便利だ。家電の一種として掃除やら料理やら洗濯やらの管理をしてくれる。
それが、一昔前と言われる様になったのは、ごく最近の事だ。
突如、頭角を表した『サイレンス・フォレスト社』が販売した製品が広告を出した事により、世界は変わる。
サイレンス・フォレスト社は、ヒューマノイドをより人に似せ、細部にまでこだわっている事を売りとした。その肌触り、瞳の輝き、髪の毛先の微妙な質感まで。
CMが流れたあの瞬間、誰もが息を呑んだ事だろう。
まるで生きているが如く、画面の中で優雅に繊細な動きを見せて舞う。そして、滑らかに肌に指を這わせ、その肌が如何に柔らかいかを見せつける。
僕も、次の瞬間にはネットで予約販売の画面を見ていた。
余りにも精巧で、擬人でありながら、それを超越したとも言える。
そもそも素材は、医療用の人工皮膚、人工細胞、人工筋肉や義眼が使用され、骨組みと脳みそ以外は、殆ど人と同じなのだそうだ。
これは噂だが次なるは、人工臓器の取り付けの研究中だそうだ。どうにも、サイレンス・フォレスト社はバイオロイドなる新しい生命体を創りたいらしい(あくまで噂だが)。
まあ、その技術の進歩のお陰か、ロボットと言われてきた標準モデルよりも価格設定が低めとなっている(勿論、カスタマイズに拘れば、恐ろしい値段になる事だろう)。
そして、僕は通常モデルの
追加プログラムも必要ない。CMで見たままの
◆
さて、昨日届いた彼女は、まだうんともすんとも言っていない。
もう
僕は満足してしまったのだ。
僕が用意した空間に彼女が存在した瞬間、僕の中で彼女は完璧になった。
今日も、僕は
僕は、完璧なる美しさが携えた声を、未だ知らない。
いつか、君の声を聞きたいと思う日が来るのだろうか。
美しきは沈黙の中に 柊 @Hi-ragi_000
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