20 結びに 小説のなかの絵師たち


 ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。


 東洋絵画を楽しむためのあれこれ。以前よりほんのすこし、東洋美術を身近に感じていただけましたら幸いです。



 さて、最後に。

 画家の生活、言動、性質、そして頭のなかではどんな化学反応が起こっているんだろう……と気になりませんか? 私はなります。絵から勝手に想像して、その想像が正しかったのか本当のところを知りたいし、私の思いつかないストーリーが知れたらうれしい。他の方が想像したストーリーを読むのも面白いです。


 ということで、画家の生態が興味深く描かれている小説をご紹介します。

 東洋・西洋・中東から一つずつ。


①『地獄変』 芥川龍之介

 平安時代の絵師のお話。当代一の絵師だが、偏屈で嫌われ者。絵への偏執的なこだわりは、鬼気迫ります。

 芸術のためには、芸術家は人でなしになれるのか。それでも人間であることをやめはしないのか。小学生のときにこれを読んだ私は、夢に見るほどの衝撃を受けました。


②『月と六ペンス』 サマセット・モーム

 ゴーギャンがモデルと言われる画家のお話。人の心を動かす絵を描く画家は、私生活でも人を惹きつけます。ところが彼の倨傲は、好意を寄せてくれる人たちを次々不幸にします。そんなことを彼はまったく気にかけず、画業に勤しむのでした。

 そういう世俗の善悪を切り捨てたところに、芸術はあるのかもしれませんね。


③『私の名は赤』 オルハン・パムク

 作者はトルコ人で、ノーベル賞作家です。オスマン朝トルコの絵師たちを襲った殺人事件をめぐるお話。

 事件の推理が物語の縦糸とすれば、横糸は画家たちの葛藤。イスラム世界の細密画を最善と信じて技を磨いてきた宮廷画家たちが、西洋画と出会って、積極的に受容する者、拒絶する者、立ち竦む者……とそれぞれ悩むようすが描かれます。



 カクヨムにも、画家たちを描いた作品があります。

 そのなかから、日本の実在の画家を描いて印象的な作品2つをご紹介。


『洛中楽Guys ー若き絵師たちの果敢ー』 林海さん

 室町末~安土桃山期の狩野派周辺の絵師たちが、新しい画境を拓いていくさまを描いた物語。絵師たちは激動の政治とも近い場所にいたんですよね。

 https://kakuyomu.jp/works/16816700426078579305


『北斎とお栄-その晩年』 海石榴さん

 北斎とその娘、さらにその周辺の絵師たちのエピソードを回想まじりに描く物語。江戸の町と絵師たちが生き生きと身近に感じられます。

 https://kakuyomu.jp/works/16816927859160503584



(おわり)


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東洋絵画の鑑賞手引き 久里 琳 @KRN4

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