1.昔の自分
僕は、生まれてから片親しかいなかった。
父親だけだった。
理由は知らない。毎日苦しい生活を過ごした。
安い家賃のアパートに住み、お金も少なかったため日々節約生活だった。それでも、3食きっちり食べることができた。
保育園にも通えた。けれど保育園では、服などがよれよれだったりしたものを着ていた。そのせいか、保育園では汚い人、貧乏、可哀想な子と位置付けられたようにイジられた。周りの子より運動ができたわけでも、上手く絵が描けるわけでもない。
だからみんなに認めてもらえずにいた。
けれど1.2人友達はいたあった。
でも心強い味方とは言い難かった。
僕がイジられたり、何かされてもとくに何かしてくれたこともないし、そもそもその時だけ僕は避けられた。
「なんで、僕はあの子に叩かれたり、嫌なことを言われるの?」
と、先生に言っても
「あなたは悪くないからいつでも先生が見守るし、力になるよ」
とだけしか言ってくれない。助けるとは一言も言われなかった。
そう、形状の味方はいたが、本当に味方と言える存在が僕の周りにはいなかった。親も忙しくて、僕に関わる暇もなかった。
「あとで、保育園の話聞いてくれる?」
と僕が言っても
「少し疲れたから休むね」
と、軽く否定される。また何も伝えられなかった。これじゃあ解決など程遠い。
今になって思うことは、無理矢理言っておけば何か変わったのかも…だ。でも、僕にそんな勇気は出ないだろう。そう思う自分が情けなくて呆れる。
「ねぇ、今度仕事休みだよね⁈」
そういうと、少し笑ってうなづいてくれた。
「なら、公園にでも遊びに行こうよ!」
すると、すぐ返事が返ってきた。
「それくらいなら連れて行ってやってもいいぞ。友達とか誘ってみてもいいんだぞ?」
珍しいな〜こんな提案をしてくるなんて。と思ったけどすぐ断った。
「大丈夫。お父さんと一緒に遊びたいから。」
すると、分かったよと笑って言って寝始めた。
僕は、この頃にはすでに、お店でお買い物をしたいっていうと機嫌が悪くなることを知っていた。
だから、お金を使わない公園を選ぶようにしていた。
あと、友達を誘うことを断ったのは僕に誘うほどの友達がいないっていうのもあるけど、何よりお父さんと二人で過ごす時間が欲しかったからだ。
そして、いざ当日になってまた運の悪いことが起きてしまった。僕に熱が出てしまったのだ。
ほんとに後悔した。一人で泣いた。なぜこんなに悲しくなるのだろう。
いつも素っ気ないお父さんと公園に行けないだけでなぜ泣くんだろう。それはきっと、公園でいじめの話や、自分が望んでいることを話そうと心にか誓ってたはずなのに話せなくなったからだろう。
そして、もうそのチャンスはないだろうなと思ったからだ。
時が経ち、小学校の入学式があった。
お父さんがなんとか時間を作って入学式に出席してもらった。
きっとその時には、まだ僕に関心を持ってくれていたのだろう。僕はお父さんが来てくれたことがとても嬉しくてずっと心が躍っていた。
そして、点呼で自分の名前がマイクを通して呼ばれた時、張り切って大きい声で返事をした。
「はい!!」
多分誰よりも大きく声が出ていたと思う。
他の子は、緊張のせいかあまり声が出ていなかった。先生が入学式が終わってからわざわざ僕のとこに来て
「素晴らしいお返事でしたね!」
と言いにくるほどだ。
今思うと、笑えてくる。なぜお父さんが来てくれただけで力が湧いてきていたのだろう。
今思えば不思議なことばかりだ。
それで学校から帰るときにお父さんにもそのことを褒められたからまだ良かった。
「今日の点呼で誰よりも大きい声で返事できたな!これからの学校生活も頑張れよ!」
めったに褒めてくれることはなかったのでそのときはとても胸の中がが満たされるような気分になった。
そして、学校に通い始めてからも相変わらずいじめが続いた。
小学校は保育園と違って毎月学校生活に関するアンケートがあり、そこにいじめのことも書けた。
自分が言葉で伝えられない分を書いて伝えられる。なんて頼もしいものなんだろう。それを書き、先生にも知ってもらい、なんとかいじめてくる人は少なくなった。
でも完全にいじめが無くなったわけではない。たまに、先生の目の前で暴力を振るわれることだってあった。完全に無くすには多くの時間を費やす必要があるだろう。
そして、学校といえば勉強が始まる。国語や、数学の基本を学んだ。大体慣れてきた頃に、手紙に授業参観のお知らせが書いてあった。お父さんには授業参観に来て欲しかったからそれからのテストは頑張った。いい点数をとって見せれば僕の授業風景に関心を持って来てくれるんじゃないかと期待したからだ。
でも、その前からあまり勉強していなかったせいか、ほとんどの人が100点を取る中3問のミスで85点だった。
だから、頭がいいわけじゃない。
それを見せても、小学生のうちは100点が当たり前だからそんなん見せるなと言われるだけだった。
休みの日には僕の数少ない友達と遊んだ。それも月に1.2回程度だったけど。だからほとんど暇な毎日を送っていた。そのおかげかは分からないが、勉強する時間が増えて、点数も安定してきた。
それから、高学年になり勉強も忙しくなってきた。
1.2年生の時より宿題も多くなり、提出期限を過ぎてしまったりすることが多くなってしまった。
保護者面談では悪いことが目立つようになり、お父さんにとっての大事な時間を使っての面談なため家に帰ってきてから不機嫌で怒られた。
「おい、小学生になったら頑張るって言った言葉信じてたのに今日聞いたことはほとんど悪いことだったぞ」
『小学生になったら頑張る』なんて、随分前に行った言葉だ。なんで今さらそんなことを言うんだろう。そんなことを思い出せるぐらい僕との話した思い出は少ないんだ。
「返事も聞こえないぞ!前みたいに大きな返事できなくなったのか?」
だから、僕だって変わっていってるのに、そんな『昔の僕』を今言う必要ないじゃん!
もっと僕のことを見てよ。
言おうとしても喉に詰まる。こんな言葉も僕は弱くて言えない。
ただただ頷くだけだ。
「何を泣いてるんだ!悪いのはお前だろ!これから中学に上がるんだからもっと大人に成長しろ!」
今まで散々見てくれていなかったのに、成長したとしても何も見てくれないだろ。
まさか、これからの成長する過程を見て、僕がどのくらい成長しているのか見ていくのか?そんなこと出来もしないのに言うんじゃねえよ。
僕の心の中は、いろんな感情でぐちゃぐちゃだ。
ついでに顔も。
吐き出したい感情が胸の中に溜まり続け、言葉に出せない。
「こ、これからまた頑張るから、今日は許して、ください。」
なんとか、謝ることはできた。
こんな言い方だと、他人のようだ。お父さんは
「もう、お前を信用できなくなりそうだ。」
初めから信用なんてしていなかっただろ、とは思うけど、僕にあった唯一の、『家族』というものを失ってしまいそうになった。
もう絆というものが感じられない。それからお互い少し避けるようになり、日が経って行った。
中学に入り、少し大人になれた気もするが当然お父さんは何も見てくれない。
そもそも中学での出来事も何も知らないんじゃないかと思うほど、行事も、学校の話も聞いて来ない。まあ、僕がしないのも悪いと思うけど。
学校からの配布物は一応出しているが読んでいるのかもわからない。
中学に入ると、人数も増えるため自然と気の合う人が増える。
僕にも6.7人ほど普通に話せる人が出来た。
でも、完全に友達と言えるのは3人ほどだ。
勉強については、小学生の時より断然難しくなった。数学は、初めはすごく簡単だったがあとから難しくなってきた。
それに、英語を本格的に授業で習うようになった。僕は苦手だ。すごく上手に話す人もいてすごいなぁと思っていた。
だけども、僕が一番苦手としていた教科は、社会と理科だ。
「暗記すればいい。」
「覚えるだけだから一番簡単。」
と、友達に言われたがそんな簡単に暗記できないだろ。
だから、苦労してんだよ。
って思った。歴史なんて知って何が楽しいんだよ。日常の当たり前のことを詳しく知って何が面白いんだよ。今起こってることを素直に認めて理屈なんて考えないで楽に暮らせよ。やっぱり自分には、面白さが分からない。
それから、テストが近くに迫っている時でもいつもギリギリから始める。
そして、前日になって焦り始める。
そのため、満足いく点数なんてとったことなかった。その代わり、点数が低いから親に叱られるってこともない。
だって、テストがあったなんて知らないから。たとえ、面談があろうと親は前のことがあったから行く必要ないと担任に無理矢理断っていた。
なんて情けない親だろう。
僕が恥ずかしくなる。
こんなことなら、お父さんより僕の方が大人っぽくなっているのではないかと思う。
お父さんは、ただの駄々をこねる子供みたいだ。まあ、僕が成長しても気づいてないからきっとお父さんは自分のほうが大人だと思ってるんだろう。
ある日友達に、
「ねぇ、健人の親ってなんの仕事してんの?」
と言われた。僕は二つのことに驚いた。いつも僕は、先生に『名前』を呼ばれることには、普通すぎて自分の名前だ。
なんて思いもしない。だけど、友達に面と向かって名前を言われると自分の名前は健人なんだと思い知らされる。もちろん、親には名前で呼ばれるなんてない。
だからそのことにまず驚いた。
二つ目に親のことについて聞かれるなんて思ってなかった。それと、親の仕事がわからない自分に驚いた。
家に帰ってきても、僕の時間と合わず、寝ている時や学校に行ってる時に仕事から帰ってくる。
たとえ、少し話す時があっても仕事の話なんて出せない。ただでさえ仕事で疲れているのに、家でも仕事の話を出せばきっと怒鳴られるだろう。
そんなこんなで、親の仕事でさえ知らない。でも、さすがに親のことを何も知らないとは言えないので、
「工場で働いてるよ」
と言った。工場なら夜遅かったり、帰る時間もバラバラなんじゃないかと思ったからだ。でも、
「そうなんだ!僕の親も工場で仕事してるんだけど、健人のお父さんはどこで働いてる?」
やばい、嘘をまた嘘で隠すと何も分からないただの妄想の話で、話が噛み合わなくなる。それじゃだめだ、と焦り始める。
「どこなんだろうね。仕事について僕はあまり聞かないからな〜。」
なんとか隠せるように誤魔化した。
「あまり、親と話さないタイプ?」
と、突然聞かれた。もしかして、今、僕は試されてる?そう思うほど家庭のことを聞かれる。一つの質問を答えるだけで何十個の質問に答えてるみたいな錯覚に陥る。でも、ここは正直に話した。
「親と時間が合わないから、全然話さない。」
「へぇー、工場で働いているのに時間合わないんだ。」
えっ?もしかして工場ってそんないい制度の職業だったりする?そう思っていると、
「もしかして、健人の親ってブラック企業とかに勤めてる?」
と笑いながら言ってきた。少し戸惑いつつも「それは、ないと思う」
と笑いながら返した。少しイラついたのでちゃんと笑えてたかは、分からないけど。この友達とは、これからのことを考えて縁を切ろう。
そう思った。
そんなことをしてたら、いつのまにかまた友達が消えていき一人の時間が増えた。その日常は過ぎるのが思っていたより早かった。
高校への入学も難なくできた。まあ、そんな頭のいいと言える高校ではないからだけど。そして、今に至る。
自分探し 菅井 @hirotosgi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。自分探しの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます