第六話「ネタじゃない天丼はイヤ?」
「自衛隊の皆さま大変お世話になりました。現地までの送迎ありがたいです」
普段は口にすることもないヴォリューム。かなりの声で感謝の言葉を紡ぐ。
わたしよりも若く感じる屈強な自衛官四人。笑顔で答礼されたのはうれしい。
「メトロでもトータル時間は変わんないぜ。検問なんかがフリーパスなんだ」
開いた後部ハッチまでズルズルとすり足。躊躇なくジャンプする令司さん。
わたしも屈んでハッチから跳び下りたよ。見上げるほどの高壁にビックリ。
「抱えちゃうからシノブから先においでよ。不安なら首に抱きつけばいいし」
大型の軍用車は地面とかなり差があった。おっかなびっくりになるシノブ。
首まで回された柔らかい腕と香しさは役得。その痩身に相応しいほどの軽さ。
最後のカナさんも重さがない羽根みたい。どう考えても中高生の美少女だ。
ここは現住所なら大阪市西区になる。なにわ筋と本町通が交差する靱本町。
先に見える立木植栽はうつぼ公園東口だ。正面の茶色い建物が目的地かな。
狭小地に立つシンプルすぎる八階建てビル。玄関になる一階の全面がカフェ。
短い階段を上り通路からスライド自動扉。カランとベル音に美声が重なる。
「いらっしゃいませ。予定より早かったね。噂どおりでわたしより背が高い」
テーブルクロスを拭きながら微笑む美人はショートヘア。モデルさんかな。
タイトなパンツスーツにお仕着せの給仕服。年齢とか性別がよくわかんない。
「このお店。カフェの店長さんでしょうか。噂わかんないけど新田ユリです。
尾田さんの紹介で起業に向けた仲間集めに。ご協力お願いに参りましたけど」
ホントなんでこうなったのかわかんない。常務とシノブの本心もしらない。
それぞれの思惑と理想が交錯した成り行き。とりあえずは流れに乗ってみる。
自己実現とか承認欲求がすべてじゃない。わかんないなりに進むしかない。
それで失敗しても軌道修正してのやり直し。最後まで貫きとおせば大成功よ。
たりないものは経験と実績だけでもない。失敗から学ぶことで勉強できる。
ハイリスクハイリターンの人生いりません。ただ成功したいわけじゃないの。
究極の選択だけど妹と従姉がいればいい。最悪ひっそりと暮らせれば幸せ。
凡人すぎるわたしたちは努力するしかない。世界を動かせる主人公じゃない。
そのはずがビックリするしかないんだよ。ヒーローとヒロインが登場した。
中二病じみた夢の前世がある地味子ちゃん。ダンジョンの攻略チームに合流?
まんまのラノベ主人公展開が衝撃すぎた。自称で勇者のケアマネージャー。
ちょびっと普通じゃない人生かもしんない。それでも物語ならモブキャラだ。
妹が天使で従姉は美女だけど特徴ないし。デカくて取り柄マジメの地味子。
ちょうどいい感じに語り手かもしんないね。周囲の騒動に振り回されるかも?
ほらほらホラーじゃないけど現代ドラマ。モテモテ佳ニくんはアイドル系。
右足を病気で切断しても周囲がハーレムだ。いろんな資格で稼げる社長さん。
彼の姪っ子エイちゃんはカナさんの従妹。美少女ギャルでエリの同類かも。
実践空手チャンピオンで祖父は与党副総裁。おバカにしてバトルジャンキー。
相棒のココちゃんはウサギ族で獣人さん。ダンジョン進化した新しい人類。
通信制で学びながらダンジョンの謎を探る。でっかい胸もホンモノらしいよ。
このビルの最上階で同棲中と聴いたけど。他にも美女たくさんいるらしい。
店長さんはカミングアウトした男性みたい。大喜多カナメさんは政府の要人。
料理人の亮さんが男装の麗人で彼女とか。ゴスロリ店員サクラは男の娘だ。
見習の料理人も訳ありで杵築ミナミちゃん。ほとんどがトランスジェンダー。
なぜかドンドン人が増えて宴会の始まり。わたしもカクテルほろ酔い気分。
店長のカナメさんに誘われステージにいた。あれっ? 古いスロットに雀卓。
店の隅になるから物置き場だったりして。とりあえず流されての自己紹介?
「ほとんどの皆さん初めまして。河内で生まれ育った介護士の新田ユリです。
ほとんどがわたしより若いかな。25歳でも外見だけデカい小心女好きです。
ギャルとリアルのバニーちゃん。最初お友達からでいいのでお願いします!」
テーブル席に並んだ料理。むしゃぶりつく食いしん坊二人は驚愕の表情だ。
初っ端からカミングアウト。挨拶でぶっちゃけたのは悪かったかもしんない。
カウンター席は引きつるイケメンと笑うカナさん。ずっこけたアイドル系。
ニコニコほほ笑む店長さんと男の娘だ。驚く料理人の亮さんとミナミちゃん。
狙ったわけじゃないのに9人もいる。となりのシノブさんにわたしと常務。
「11人いる!」名作マンガより多い。NPO法人の設立10人以上じゃん。
従姉と妹の三人で幸せになりたい「終わりから始まりに繋がる起業」~ホリゾンタルとヴァーチカルは永遠に交わらない 神無月ナナメ @ucchii107
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