第五話「食堂のナンパがハジマリ?」
「ノッポちゃん背中が煤けてるぜ。勝負いくなら100パーぶっ跳ばされる」
後ろから響く前半分は決め台詞。古いマンガの勝負師が使った煽り文句ね。
捨牌を哭くごとに手配が強くなる。カンのドラを乗せるとリンシャンでロン。
背後から声かけされたけど誰よ。にらもうと考えてから理性で踏み留まる。
関連職員しか食堂は利用できない。チャラい声かけが堅気にも感じないけど。
振り向くと白衣の汚れが目立つ。常務に匹敵するほどの長身イケメンさん。
さわやかさが欠片もない夜の住人。相応の雰囲気だけどこれで研究者らしい。
「珍しいぐらい直球のナンパすね。アタオカ言動がノッポ先輩らしくないよ。
ミナミの裏側じゃリアル哭きの竜。二つ名みたいですけどここじゃヤバいし」
男の向こうきつねうどんをすする女が辛辣すぎた。驚くほど外見は真っ白。
「ナンパとかパワハラじゃねぇよ。オーラってヤツが煤けて消えそうなんだ」
「オーラすか? 聖戦士じゃないっすよ。バイストンウェルは存在しません」
こいつら休憩中だけどアタオカのオタクじゃん。恥ずかしくないのかなぁ。
そりゃ昭和の名作だからわかるんだけど。てか全話サブスクで視聴したから。
そもそも二人の会話がノリツッコミだ。なにがどうしてこうなったのかな?
「とりあえず座ってくださいよ。わたしは英田カナ。デカいこれ九頭竜令司」
イケメンの正面が空席だった。くわえ箸で示すとうどんを口に寄せる美女。
よく見ると双眸まで紅眼じゃね。銀髪に白肌だからマジもんのアルビノかも。
「えっとじゃあ失礼します。病棟介護士の新田ユリです。お疲れさまです?」
「そっちも明け日勤でしょ? こっちは二徹だからオラついてごめんなさい。
このひと悪気ないんだけどアル中? 酒と女で発散しないとヤバいんだよね」
なんとなく理解はできる。この人たち研究中でしばらく帰宅してないんだ。
不眠不休でも給料でないやつ。上司からの命令されないのにワーカホリック。
「いえいえこっち明けです。引き継ぎ終えたし。これから準備の日々ですよ」
「へぇケッコンしちゃうの。わたしよりお若いのにおめでとうございます?」
発言自体がおかしいよね。外見十代の美少女。もちろん研究者に見えない。
引き継ぎして準備だから勘違いされたみたいだ。言葉足らずだったのかもね。
「ちゃいますって。結婚どころか相手いません。ここ辞めて起業なんですよ」
「あれちょい待ち。んーとどこかで……常務。上司が尾田さんじゃないか?」
直で面識ない男だけど……もしかすると常務の関係者かな。やばいヤバい。
「いえいえ。尾田さん協力者……その秘書です。シノブがトモダチみたいな。
これから靱本町のダンジョンで面談なんすよね。法人設立に向けたイロイロ」
「えっ? それってFOXビル一階のカフェじゃねぇ。佳二くん関係だよな」
この男かなりびっくりしてるけど。このひとたちも関係者かもしんないね。
「あれ尾田さんにお願いされたヤツ。いつもの飲み食いタダで呼ばれたよな。
むりくり調整してっから二徹なんだ。お嬢のお願いブッチで逆ギレされたし」
ワイルドな大男が椅子ごとのけ反りながら頭抱えた。呆然とするしかない。
退職の直前におかしな二人組と邂逅しちゃったんだよ。よくわかんない間に。
「皆さんお世話になりました。実務と知識で向上してケアマネになれました。
これから起業に向けて邁進します。なにかご相談でもあれば連絡くださいね」
パチパチとまばらな拍手だ。総合詰め所で挨拶してから正式な退職になる。
もちろん手続きは終了しない。保険とか書類の受け渡しなんかも後日らしい。
とにかく二年近くいろんな世話になった。職員で訪問は最後になるのかな。
5年勤務してもそっけない退職の老健施設。あそこと違いつながりは残った。
そもそも退職を提案したのが常務だよね。背後で見守るシノブと一緒にさ。
これからシノブ同伴で靱本町に移動する。いよいよ起業に向けての一歩だ。
おかしなつながりで同伴者が増殖したけど。仲間と呼べるのかもわかんない。
「寝不足だからハイヤーで喜んだらアレだ……相変わらず。佳二くんに脱帽」
常務と並べる長身。バレーボールプレイヤーにしか見えないイケメンさん。
「あたしもビックリしましたよ。退職当日に出会うとか運命かもしれません」
シノブもあきれた声だ。シノブの通勤車日産サクラで二人乗り予定だった。
なぜか午後イチの四人移動に増えちゃった。向こうに相談したらビックリだ。
なんで陸上自衛隊。迷彩柄装甲車がお迎えなんだろう。わけがわからない。
オーストラリア陸軍ブッシュマスター。陸上自衛隊でも激レアの車両みたい。
噂は聴いてるけど。靭公園にダンジョンが誕生することで世界は変化した。
それでも説明されてないよ。これからモンスターハンターになっちゃったり?
夢で見た勇者時代。輝く巨大な聖剣を携えて魔物と闘う日常だったけどさ。
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