第四話「どうしてこうなったんだ?」

 おかしな流れは不思議な方向に進んだ。わたしに残る最後の選択肢はどれ?


「おもしろい流れで不自然なぐらいの最適解に誘導できたよ。結果論だけど」


 正面で穏やかに笑う常務。納得できない顔をゆがめても美しいシノブさん。


「最初に感じたんですけど尾田さん。実は人間を堕落させる悪魔じゃないの?

黒いスーツに山高帽。アーッハッハッハって笑いオイシイ話を提案するひと」


「あぁそれホントそうかもしんない。悪魔は来りて笛を吹くってヤツじゃん」



「呼称は尾田さんでも構わないよ。美女お揃いの悪魔呼びは納得いかないが。

寄ってくる人間ほど信用できない。面倒すぎて優子さんが傍にいれば十分だ」


 へぇ。ハリウッドスターみたいなイケメン。博士号持ちの医者で大金持ち。

それでも女は一途みたいな演歌の世界じゃん。ラスボス大魔王じゃないんだ。


「ぜったい優子さんにナイショね。こんなんでも嘘はつかない一途なんだよ。

忘れるぐらい昔もらった飴ちゃん袋で一目ぼれ。ずっと見守ってたんだから」


 ちょっと待ってちょっと待ってお嬢さん。ゆうこりんの記憶と視点の違い?



「ユリくんに余計な話はいらない。ホント論点ずれた女の無駄話は嫌になる。

病院を辞めてもらうことは決定でも別の業種にいかれても困る。想定外だよ」


「えぇっと我慢して勉強して合格したケアマネージャー。捨てませんけど?」


「もちろんだ。ほんとうにユリくんがやりたい仕事は障がい者福祉の最前線。

グループホームに預けた妹エリくんとの同居だ。そこで困らない知識と経験」


「尾田常務……それ正解ですが。ゆうこりんにも話したことないんですけど」


「優子さんに聴いたよ? 妹たちの暮らし落ちつくまで結婚できませんって」


 即答した常務の声に愕然として言葉がでない。白目剥いてるかもしんない。



「おにいさまにアドバイスしたはずよ。あたしら一緒にやるから大丈夫だし。

あれ勝手にやる気なの? 自分で資金から場所なんか用意して法人設立まで」


 シノブのツッコミに驚愕した。ギシギシ音を立て首を上げると目が点状態。


「常務それやったらおしまいじゃん。わたしたち施しなんて必要ありません。

わたしの目的はエリとの同居ですよ。それに向けたNPO法人設立ですから」


「ほらほらほらーやっぱあたしの読みどおりじゃん。NPO設立大当たりー」


 シノブがウラウラウラと常務にベロだし。中指おっ立てて挑発してるんだ。

お嬢の見た目に反して内面お姫様じゃねえ。お芝居かもしんないけどスゴい。



「忍くんに完敗だ。世代間ギャップってヤツか。すべてお任せで撤収するよ。

当初の想定どおり……監査役を引き受ける。確認申請も即急に通過させよう」


 まさかまさかまさかなんだけど……肩をすくめる常務。苦笑いで退出する。


 もしかしなくてもあれかなエチュードだっけ。台本のない即興のお芝居だ。

あらかじめ設定した筋書き。舞台俳優がお題にあわせたセリフで展開させる。


 わたしに同調させてシノブとの関係を構築する。無理強い感までなくした。



 常務の目的は最初からゆうこりん。わたしに欠けるのが同年代の仲間たち。

シノブは額面どおりに捉えるなら身内になる。長いつきあいになる同級生だ。


 最低でも10人の仲間。NPO法人を設立したいから集めないといけない。


 ホントは株式会社でもいい。サイアクなら1円起業した合同会社で十分だ。

ちいさな事業所の立ち上げに管理者。サービス担当責任者を兼務で三名いる。


 ゆうこりんにお願いしてわたしと誰かさん。場所は相談室付きの事務所だ。

住民票を移せないから自宅は別に必要だけど。それでも現時点で動きだせる。


 メリットとかデメリット。将来性と相殺して誰もが始められるから難しい。

実際のところ数年持たずに廃業するのが大半だ。それぐらいに継続は厳しい。



 きっかけになる建前は常務から用意された。あとは自分で考えて動くだけ。

夢なんて見るものじゃない叶えるものだから。そうヒットソングで歌ってた。


 強い願いを叶えるために代償が必要になる。すべてがうまくいくなんて……


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