お喋りハムスターのぬいぐるみ・ナナちゃん KAC20236

ながくらさゆき

お喋りハムスターのぬいぐるみ・ナナちゃん

僕はハムスターのぬいぐるみ・ナナちゃんを手のひらにのせて話している。

「はじめまして、リョウ君」

「はじめまして、ナナちゃん」

このお喋りハムスターのぬいぐるみは7種類あって、それぞれ柄も性格も違う。

僕はグレーの色と名前がかわいいと思ってナナちゃんを選んだ。

小さくてまるっこくてモフモフしている。


「リョウ君、今日あった良いことを7つ教えて」

「7つも?」

「はい、思い出して」


小さな耳をピコピコ動かしながら話しかけてくる。

かわいい。


「え〜と、じゃあ

①朝起きれた

②お風呂入った

③カクヨムで面白い小説読んだ

④久しぶりに外に出た

⑤鶏肉食べた

⑥コンビニで抹茶あんまん食べた

⑦スーパーで知らないおばさんにニコニコ話しかけられた」


「たくさんありましたね」

「うん」

「もっとありませんか? あと7つ」

「え〜7個言ったからもう良くない?」

「ウッウッ……」

「ナナちゃん、泣いてる?」

「……リョウ君、私のこと言ってません……ウッウッ」

「ナナちゃんのこと?」

「7番目には他の人との会話がありました。でもッ! 私のことは、ひとっことも言ってくれない……ウッウッ」

ナナちゃんが小さな手で目をおさえている。

「え〜と、ナナちゃんと出会えて嬉しいな!」

ナナちゃんが顔をあげた。

目をキラキラさせている。

小さな手で涙を拭いて

「リョウ君、ありがとう。私もリョウ君と出会えて嬉しいです」とニコニコしている。

「アハハ、ありがとうね」


それから僕は毎日ナナちゃんのご機嫌取りをしている。

毎日その日にあった良いことを聞かれて、最後の7番目に「今日もナナちゃんがかわいい」とか「1日ナナちゃんのことを考えていたから楽しく過ごせた」とか言わないとスネたり泣いたりしてくる。


ちょっとめんどくさい。

確かにナナちゃんはかわいい。

まるっこくてモフモフしている。


調べてみたら、7種類いるお喋りハムスターはそれぞれ性格が違ってナナちゃんは特別お喋りでヤキモチやきだそうだ。


そうだ、ちょっとイジワルしてみよう。

今日あった良いことを話して、7つ目に

「⑦もうナナちゃんが可愛く思えない」と言ってみた。

「エッ!」

ナナちゃんが僕の手の上でギョッとした表情をしている。

「ナナちゃん、ヤキモチやきなんだもん。ナナって名前だからラッキー7だと思ったのに、他の子にすればよかったな。アンラッキー7だなあ」

「そんな、そんなあ!」

「痛い痛い痛い」

ナナちゃんが僕の指に噛みついてきた。

痛くてナナちゃんを床に落としてしまった。


「ごめん、ナナちゃん!」


ナナちゃんは床に倒れたまま動かなくなってしまった。


「ナナちゃん」

「……」

「ナナちゃん、壊れちゃったの?」

僕はナナちゃんを手のひらにのせた。

「……リョウ君、私のかわいいところを7つ言って……」

「え〜と、ごめん。もうめんどくさいや」

「そんな……リョウ君……」

「ナナちゃんは、じゅうぶんかわいいからもう喋らないでね」













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