336 さり気なく『にゃーこや』ロゴ入り

 そして、翌日。初露店だ。

 早朝は食べ物屋台や露店ばかりが目立っているが、それ以外の露店も少し開いている。旅先で必要な物まで売ってる雑貨屋、ポーション屋、土産物屋、その他、だ。


 とりあえず、今日一日だけなので、どうせなら、朝からオープンしよう、というのもあったが、朝の屋台も目当てだった。

 やはり、昼間と種類が違うのだ!


 焼き立てパンはもちろんのこと、揚げパンの類、大きな餃子みたいな惣菜パン、スープ類も種類豊富だった。

 食べ歩きも、となるとデュークとバロンも同行しており、様々な料理を堪能していた。


 おっと、本来の目的を忘れる所だった、とそこそこ買い込んだ後は露店スペースで食べることにした。

 日本のフリーマーケットのようにギッチリではなく、通路も荷物置き場もたっぷりあるので、従魔連れでも狭くはない。


 ウッドデッキを設置して、天幕も立派な…とはやらず、どこにでもあるような天幕とゴザのような草を編んだ敷物を敷き、アイキャッチになるトルソーを設置してから、紙箱に入れた商品を敷物の上に並べて行った。


 トルソーは超高級モデルと一般モデル、子供サイズと三体三種類だけだ。

 そして、値段を書いた木札とシヴァたちが座る分厚い座布団を設置して終了。

 トルソーを使ってる所からして、素人の露店には見えないだろうが、こんな簡素な露店に超高級商品があるとは到底思うまい。


 売り子となるシヴァとアカネのローブは今まで使っていた砂色、キャメル色の目立たない色である。商品を目立たせるために。


 ローブはフードと袖があるゆったりとしたデザインの長めの上着で、バスローブのように紐で結ぶもの、襟元の一ヶ所をボタンで留めるもの、襟元で紐で結ぶもの、と三種類が一般的なので、ボタンで留めるものにしたが、リバーシブルである。中側は一般的なカーキ色だ。


 普段はカーキ色の方を表にし、折り返した袖やフードがオシャレ、という使い方も出来る。

 豹系魔物の従魔は結構いるが、滅多に見かけないグリフォンとカラフルな柄に「え、何あれ?」と最初から注目されていた。


「キッレーな色…」


「ワンピース?…ローブ?」


「たっか!金貨3枚って……」


「いや、染料が高いんだろ。こんなに色んな色が使ってあって、作りもよさそうだし、安いぐらいかも」


「…って、あれ?一緒の柄がたくさんある…どうやって?」


 錬金術である。

 魔道具を作って布に印刷も出来なくもないが、その辺りは黙っておく。


「…ちょっ、おい、その人型にかけてあるの金貨150枚だってっ?」


「おいおい、何でそう高いんだ?」


「魔道具だから。木札をよく読め。『冷気で涼しく、スパイダーシルク混で物理魔法耐性あり。『幻影付与』で砂トカゲに擬態することも出来る。浮遊魔力利用で魔石交換なし』だ」


「……何でそんなにたくさんの機能を盛り込んであるんだよ…」


「…いや、その機能が本当なら安いぐらいだ。大急ぎで鑑定スキル持ちを呼んで来るか…」


 何やら、思った以上に注目されてしまった。

 価格設定が高めのため、買う人はまだいないのに。


「ねぇ、金貨3枚って強気の値段じゃない?せめて金貨2枚」


「染料のために北のカルメ国まで行ってるんで、安くは出せねぇな」


 まぁ、今回は使ってないが、カルメ国で染料をゲットしたのは本当である。


「どこ?それ」


「東隣のリビエラ王国の北隣の西隣の北隣の北隣の国」


「ラーヤナ国の北だっけ?」


「ラーヤナ国の北のヒマリア国の北東がカルメ国」


「このキレイな発色と同じ柄を見ても分かると思うけど、布の素材や織り方まで最先端技術を使ってるの。安く出した方が作ってくれた人たちに怒られちゃう」


 仕入れている体裁でアカネがそう補足した。

 錬金術の腕を上げているので、アカネも一枚のローブなら作れたが、十分ぐらいかかっていたので実感も入っている。

 染料は抽出してあるが、ローブ作りは糸を紡ぐ所からなので、世間一般的にもかなり速いだろう。

 ちなみに、シヴァの錬金術だと一番最初に錬成した物でも一分とかからない。二枚目以降は複数同時錬成で数十秒。そこは熟練度と経験の違いだ。


「ま、まぁ、確かに、ここまでキレイな色は初めて見るわね…」


「まとめて買ったら安くなるのか?」


「ならない。二着以上だと端切れで作ったハンカチがオマケで付くぐらいだな」


 こっちの方が売れるんじゃ、と思ったので、あくまでオマケにした。錬成しているので端切れなんか出ない。ハンカチはわざわざ作った物である。


「二着買えば、ハンカチ二枚?」


「一枚」


「二枚にしたら買う」


「端切れで作ってるから枚数ねぇんだよ。他にも行商に行くから、ここで売れなくてもいいし」


 ハンカチの枚数はいくらでも増やせるが、ここで売れなくてもいいのは本当だ。『ホテルにゃーこや』でもいいし、商業ギルドに卸してもいい。


「……う~商売上手め。三枚買ったら二枚?」


「いいぞ。お買い上げ、ありがとう」


 客に金をもらい、柄とサイズ確認をさせてからローブにクリーンをかけてキレイに畳み、再び箱に入れて蓋を閉めて渡す。

 商品ディスプレイのための紙箱ではなく、実用だった。

 紙箱もカラフルで、さり気なく『にゃーこや』ロゴが入っていたりする。ローブには裾の所にさり気なく。

 ハンカチはオマケなので入れてないが、そのままプレゼントに使える柄入り紙袋には入れる。


「箱も付くのか」


「裏返しても着れるのか。それなら一枚ぐらい…」


 金貨3枚というのはローブとしては高いが、平民でも頑張れば手の届く価格であり、交易に来ている商人たちにとってはさほど高額ではない。もっと高い商品なんていくらでもあるからだ。

 まして、便宜を図ってもらっている地元の領主や貴族への贈り物として、物珍しい物は大歓迎だろう。



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新作☆「番外編40 最強種の黄昏(たそがれ) ― 捕食者side ― 」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818023213376231504

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関連☆「番外編56 さすらいの修理屋と不本意な称号」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093081179641450



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